岡田正大教授(慶應義塾大学大学院経営管理研究科教授)からは、大学によるサステナビリティ人材育成の取り組みとして、同研究科で実施されているユニークな取り組みが紹介されました。
同研究科に設置されている修士課程(MBAプログラム、エグゼクティブMBAプログラム)、後期博士課程のうち、エグゼクティブMBAプログラムには“Visionary Project”というプロジェクトが組み込まれているということです。
プロジェクト名になっている“Visionary”とは、学生の多くが実務において四半期や単年度でものごとを考えねばならない職責にある中、あえて中長期的に未来を考えて使命感を磨き、経営の知識と視点を身に着けることを表しています。
本プロジェクトでは学生に、20年、30年、40年先の未来を考える中長期的視点を求めます。科学的データを踏まえて未来社会を検討・予見している文献をテキストとし、バックキャスティング手法を用いて経営者として望ましい未来を構想し、いま何をするべきか考えてもらうのです。
学生の中には、中長期で考えるということを非現実的だと主張する人もいるそうですが、企業・社会が40年間持続するために何が必要なのか、何をすべきか、「教え込む」ことよりも「感じてもらう」ことを大切にしていると説明されました。
たとえばサブサハラ地域に行くと、すさまじい貧困の現状を目の当たりにし、Basic Human Needsとは一体何か自ら考え学ぶようになることから、企業経営者が学ぶべきこと・必要性を発見することのできる環境づくり、サステナビリティの必要性を感じてもらう環境づくりを大切にしているということです。
最後にGefei Yin氏 (Chief Expert, GoldenBee Corporate Social Responsibility Consulting, China)より中国におけるCSR教育・CSR研修の現状と、コンサルティング会社としての同社による取り組みが紹介されました。
2007年に発足した国連PRME(責任経営教育原則)を契機に中国ではMBAコースの中でどうCSRを扱うか検討が開始され、2008年に4大学(清華大学、長江商学院、Hong Kong Baptist University、China Europe International Business School)がPRMEに署名しました。
2018年、国のMBA教育運営委員会がビジネス倫理をMBAのコアコースとすることを宣言し、2019年現在、100大学以上がビジネス倫理とCSRに関するコースを設置しているということです。MBA教育運営委員会はビジネスとサステナビリティを結びつけるため、CSR教育のガイドラインも示しています。
今では清華大学や北京大学など中国の15大学に18の専門的CSR研究機関も設置されています。政府機関や業界団体、コンサルティング企業によるCSR研修も展開されており、同社も大学での講義のほか、政府機関、業界団体向けのCSR研修を提供しているということです。こうした提供先には、富士フイルムやSONY、日立などの日本企業も含まれていることが報告されました。