封鎖された町の物語(三浦 光仁)

2ヵ月前には大きな展示会で新製品の発表に向けて準備を進めていました。搬入の手筈を考えていた開催日の2日前に突然のメールを受信し、展示会自体の開催中止が告げられました。現在の社会状況を予告する具体的な「変異」を感じたのはこの時が初めてでした。

それからわずか1か月で世界は急速に変わりました。何かに脅迫されているような、今までに経験したことのない妙な恐怖が漂い始めていると感じました。

世の中の環境の急激な変化に対して心構えのような、言い換えれば「覚悟」のようなものが必要だと思いました。

話題の小説「ペスト」

そんな時、うっすらと遠い記憶の中に分厚いフォリオ版の『ペスト』が浮かび上がりました。アルジェリアの地中海沿岸の、地方都市オランがある日『ペスト』で閉鎖されます。その閉鎖された街で突然の災厄に立ち向かう人々を描いたカミュの小説を思い出しました。アルベール・カミュが好きで、いくつかの小説は読んでいましたがその本は厚すぎて、しかもタイトルが余りにもダイレクトすぎて、手に取るのも憚られ、今日まで読んだことがありませんでした。

『異邦人』に次ぐ第2弾のこの小説は、世界で熱狂的に受け入られ、カミュは忽ち世界的な作家として評価されます。ネットで検索してみるとなんと売切れ。考えることはみな同じか。まさか『ペスト』が今ごろベストセラーに。いや、確かに第二次世界大戦直後の1947年、発刊されるやいなや大ベストセラーになったのですから、世界の大都市がみなリアルに封鎖されているいま、そして日本も、この東京も同じ運命を辿ろうとしているいま、読むべき本と言ったら、やはり『ペスト』なのでしょう。

予約をしておいた新潮文庫が入荷し、フォリオ版の原本はいまだ入荷日が分からないことから、日本で印刷されたという原本を取り寄せ、さらには100分de名著というNHKの解説本も購入し、万全の態勢の下で読み始めました。

『ペスト』では町全体の監禁状態が描かれますが、そこで経済活動ができなくなってしまったときに、人間は果たしてどう対応するのか、という報告書でもあります。この点も『ペスト』という小説がもつ、きわめて現代的な意義ではないでしょうか。地震や原発事故が起きて経済システムが停止したらどうなのか?日本が置かれた状況ともそっくりです。

2018年に書かれたこの解説本は世界が『ペスト』以上の現実の恐怖に包まれていることをこの時まだ知らないのです。20万人の地方都市に起きた状況が、いま70億人の地球に起きているのです。

読後感はまた改めていつか。いまはまだ、物語に出てくる主人公たちの人となりをつかんでいる段階ですので。

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オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

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