中国イカ釣り船による違反操業の実態明らかに(下)

■日本でのスルメイカ漁獲量24万トンが4万トンに

スルメイカは、日本近海に生息するイカの1種で日本の主要水産物の一つ。寿命は1年で、東シナ海でふ化したものが日本海や太平洋を北上。東北から北海道にかけての海で成長、再び南下して産卵する。

漁獲量は北海道や青森県で多いが、2000年ごろをピークに減少傾向が著しく、11年には24万トン超だったものが18年には4万8千トン、19年には4万2千トンにまで落ち込んでおり、漁獲量が最も多い北海道、2位の青森県などの漁業者は極めて厳しい状況に置かれている。逆に価格は過去5年ほどの間に5倍近くに高騰しているので消費者への影響も顕在化しつつある。

水産庁は産卵域などでの海況の変化と中国漁船などによる乱獲が資源減少の原因とみている。公海から各国の排他的経済水域(EEZ)内に広く分布する国際資源であるスルメイカに関しては、国際協調による資源管理が不可欠だ。

日本が国際的な資源管理の議論をリードするには当然、日本漁業の資源管理も重要になるが、これが、必ずしもきちんと行われているとは言いがたい。水産庁は資源管理のために年間の漁獲能量(TAC)を定めているが、毎年、漁獲量はこれを大きく下回っており、日本の漁業者についても「取り放題」の状況が続いている。

GFWなどによると、04年、北朝鮮は中国と数百万ドル規模の漁業権契約を交わし、領海内での中国漁船の操業を認めた。17年の国連制裁決議でこれは禁じられたが、その後も、北朝鮮が制裁に違反して中国の漁業関係者に漁業権を売却し、外貨を獲得していることが指摘されている。今回明らかになった活動が、制裁下の北朝鮮にとって貴重な外貨収入源になっている可能性は高い。

IUU漁業や国連決議に違反するような漁業は論外だが、合法的な漁業だとしても、少なくなった資源を、日本を含めて各国が先を争って採り合うような状況が続けば、漁業の崩壊もそう遠いことではないと思われる。今回の調査をきっかけに、スルメイカ資源の国際的な管理態勢づくりと違法漁業の監視体制の強化に取り組むことが急務だ。

◆井田徹治(共同通信編集委員/オルタナ論説委員)
1959年、東京生まれ。東京 大学文学部卒。現在、共同通信社編集委 員兼論説委員。環境と開発、エネルギーな どの問題を長く取材。著書に『ウナギ 地球 環境を語る魚』(岩波新書)など

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井田 徹治(共同通信社編集委員兼論説委員/オルタナ論説委員)

記者(共同通信社)。1959年、東京生まれ。東京 大学文学部卒。現在、共同通信社編集委員兼論説委員。環境と開発、エネルギーな どの問題を長く取材。著書に『ウナギ 地球 環境を語る魚』(岩波新書)など。2020年8月からオルタナ論説委員。

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