後退する民主党の気候変動政策(下)

このエントリーをはてなブックマークに追加

民主党政権は昨年12月に国内排出量取引制度の先送りを決めた。具体的な政策を欠いた「温室効果ガスを2020年までに1990年比で25%削減する」という政府目標の達成はおそらく不可能だろう。この混乱はなぜ生まれたのか。

■反発で妥協案を引っ込める

環境省(東京・霞が関)

排出量取引は、企業の温室効果ガスの排出に上限(キャップ)を定め、その過不足分を売買して削減を促す仕組みだ。EUでは2006年から実施されている。民主党政権は09年3月に地球温暖化対策基本法案でこの取引を「1年以内を目途に実施する」とした。ところが昨年12月の関係閣僚会議では期限を設けずに「検討する」とし、事実上先送りした。

この制度には産業界が「キャップは企業活動に制約を加える」と猛反発。制度設計を担った環境省は「企業が自主的に目標を設定する」などの妥協案を出したが、意見はまとまらなかった。菅内閣は経済再生を目指す「成長戦略」を打ち出し、産業界との協力を重視。そのために同制度を先送りしたのとみられるが、政策の転換は唐突で、政権から国民への明確な説明はない。

排出量取引について、民主党の政策ブレーンの一人で環境エネルギー政策研究所の飯田哲也代表は削減効果があると主張する。飯田氏によれば、日本の産業部門の温室効果ガスの排出量は全体の35%を占めるが、その半分を約150社が出す。「限られた企業へのキャップ設定は効果が確実にある。それなのに反対に直面すると引っ込める政権の態度からは、問題へ取り組む真剣さがうかがえない」と指摘する。

■政治が民間の知恵を使いこなせない

飯田氏は民主党の動きを間近で見て「3つの誤りがあった」と指摘する。「既存の官僚組織に依存」「人事の失敗」「政治任用の失敗」だ。党内に環境、エネルギー政策の専門家が少なく、この分野の政策を立案した岡田克也議員が外務大臣、幹事長などの別の分野を担当するなど、人事が適切に行われなかった。

また、政治家と政治任用による有識者のプロジェクトチームが政策の見直しを外部から行うべきだったのに、その作業を専門性を持つ官僚に頼ってしまった。「変革の機会を失った責任は大きい」と飯田氏は残念がる。

民主党政権の気候変動政策の迷走を見ると、その力不足は明らかだ。しかし民主党だけが問題なのか。日本のエネルギー・環境政策はこれまで官僚が仕切ってきた。それゆえ政権交代時に、政策の流れを変える機会が訪れても対案を出す準備がなかった。

飯田氏は語る。「世界のエネルギー・環境政策は、社会や文明のあり方についての哲学や深い思索から生まれている。再生可能エネルギーの拡大、原発の見直しはその表れだ。これは権益を考える官僚が主導する日本にはない。日本社会の抱える『知の貧困』が、この状況を生んだのではないか」。

民主党の失態は、日本の政治文化の未熟さから生まれた根の深い問題なのかもしれない。(オルタナ編集部=石井孝明)2011年1月27日

2011年1月26日(水)10:00

alternaショップ
ページの先頭に戻る↑