自転車 危ういブーム(8号・第二特集)

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(山本修二、 オルタナ8号第二特集掲載)=2008年7月発行

「環境に優しい」「健康に良い」などというフレーズに乗って、自転車が脚光を浴びている。書店の棚に並ぶ自転車雑誌の数は増え、一般情報誌から女性誌まで「自転車特集」というタイトルが踊る。「自転車ブーム」とまで言われる昨今だが、実情は必ずしもそうではない。自転車を単なるブームに終わらせず、本当に環境や健康に配慮した交通手段として定着させるためには、どうしたら良いのだろうか。

2006年の日本の自転車保有台数は7189万3千台。1986年の5674万4千台から、20年間で1500万台余も増えている(日本自転車協会 調べ)。また、07年の国内年間生産台数は113 万8千台で、06年の133万5千台から減っている。これに対して、輸入台数は、 933万9千台(06年)から960万3千台(07年)に増加(日本自転車産業振興協会調べ)。国内メーカーを含め、生産拠点は海外にシフトしているが、 市場は確実に拡大している。

ところが、全国の自転車販売店舗数は毎年減り続けている。88年には3万 6245軒あった店舗は、07年には1万1459軒となり、19年間で3分の1以下にまで落ち込んでしまった(経済産業省調べ)。

繁盛店はメンテと高額商品で勝負

グリーンサイクルステーション代表取締役の鈴木潤さん

その一方で、急激に業績を伸ばす元気な小売店も現われている。全国に151店舗を展開する「サイクルベースあさひ」は、07年に東証一部に上場。 08年2月期の売上高は172億円。04年から83億円も伸ばしている。売り場面積150坪以上を誇る各店舗には、一般車からスポーツ車まで常時800ー 1千台を展示し、交通量の多い都市近郊の幹線道路沿いに集中的に出店している。各店舗には、「組立整備士」「安全整備士」の専門資格を持つスタッフを配置 し、アフターサービスにも力を注ぐ。あさひの成功を追従するメガストア型の自転車販売形態は、関西を中心に増加している。

街の自転車店が、世代交代を機によみがえった例もある。横浜・山下町にあるグリーンサイクルステーションは、31年に鈴木商店として開業した。98 年に店を継いだ3代目の鈴木潤さん(現同店代表取締役)が、04年にそれまでの総合自転車店から小径スポーツ車専門店へと転換。この店の1台当たり平均販 売単価は約13万円(国産自転車平均単価の5.8倍)で、ウエアや小物と合わせて1度に30万円以上を購入する客も少なくないという。

06年には、同店から徒歩1分の場所に女性をターゲットにした2店舗目を開店。両店合わせた売上高は2億2千万円にのぼる。鈴木さんは「いいもの、 使いこなして楽しいもの、愛着がわくものを長く快適に乗り続けたい。大金を出して買ったのに、同じ自転車が町中にあふれていたら嫌。そんなお客様が多いで すね。大量生産による高額自転車の大手ブランドは、今後飽きられてくると思いますよ」と話す。

グリーンサイクルステーションのような、趣味性の高い自転車に特化した店の元気さに象徴されるように、現在の自転車市場は、従来の大衆的な生活自転車層を ベースにしながらも、本格的なスポーツ車やファッション、デザイン性に優れたより単価の高い車種を趣味として楽しむ層が確実に増えている。

こうした人たちのお陰か、各地で開催される自転車関連イベントの集客はいずれも好調。レースのような本格的なものではなく、長距離をマイペースで走れる ツーリング型が人気を集めている。「6年前は締め切りを延ばしても定員には達しませんでした。ところが、2年前に10日で定員に達してから、昨年は5日、 今年はわずか1日半で締め切りました」。今年4月末に1242名の参加者を集めた「バイシクルライド2008イン東京」を統括する、スポーツ・プランニン グハウスの田辺達介さんは語る。

本当にエコな自転車とは

自転車は確かに、使っている段階での環境負荷は低い。とはいえ、工業製品である以上、生産段階での環境負荷は免れない。中でも近年、高級スポーツ車 に使われるカーボンファイバーの普及は懸念される。アルミや鉄と比べて製造段階で大量の熱量を必要とする上に、現状ではリサイクルやリユースができないか らだ。日本の廃棄自転車数は711万台(07年)。このうち、再生されリユースされるのはわずか10%。71%は国内で再資源化され、13%は資源として 輸出。残る6%はゴミとして埋め立てられた(自転車産業振興協会調べ)。埋め立てゴミを出さないためには、リサイクルやリユースできない素材は使うべきで はない。

新車の販売形態についても疑問が残る。毎年2月に部品メーカーが、翌年の仕様を発表する。そこから各自転車メーカーが、翌年に販売するモデルを計画し、 6―9月にかけて順次発表。早ければ翌年モデルであるはずの新型車が、8月に店頭に並ぶこともある。

こうしたイヤーモデル制度は、90年代に米国の自転車メーカーがはじめたが、ら各自転車メーカーが、翌年に販売するモデルを計画し、6―9月にかけて順次 発表。早ければ翌年モデルであるはずの新型車が、8月に店頭に並ぶこともある。

こうしたイヤーモデル制度は、90年代に米国の自転車メーカーがはじめたが、現在は部品メーカーが主導権を握っている。自らが新しい話題を作り、客の興味 を喚起し、購買につなげるのが狙いだ。部品の変更が出れば、フレームの素材やカラー、構造までをその都度検討し、製造ラインを変更。さらにはステッカーや カタログは作り変えられ、売れ残った車種は廃棄する。これが毎年繰り返されているのだ。

「変更のための変更なんて無駄なことはしない。最初から完成したものしか市場に出さない。もし実際に乗っていて不満を感じることが出てきたら、変更すれば いいのだから」と話すのは、サーリーの 製品開発を担当するデイブ・グレーさん。 サーリーは、米国のブランドながらイヤーモデルを拒否。フレームは、比較的環境負荷が少ない鉄製に限定し、確実に売り上げを伸ばしている。

また、英国の折りたたみ自転車専門メーカー、ブロンプトンは全1200点のパーツのうち80%を自社生産品か専用設計のものを使っている。同社代表のアン ドリュー・リッチーさんは「パーツメーカーの都合で仕様を変えたり、納期が遅れることにうんざりした。安定供給のために、この方法を選んだ」と語る。

現在、一部メーカーの製造工程では、有機溶剤を使わない粉体塗装や、鉛やカドミウムなどの有害物質を使用するメッキ加工の必要がないステンレスパーツへの 切り替えなど、環境配慮を念頭に置いた様々な改善の動きが見られる。デザインだけで判断するのではなく、メーカーの環境に対する取り組みや考え方なども合 わせて吟味し、長く気持ちよく乗り続けられる物を選ぶ目を持つことも大切だ。

走行環境の整備は道半ば

自転車が走る道路環境にも、最近様々な変化の動きがある。国土交通省は警察庁、各自治体と協力して、自転車通行レーンの社会実験を開始した。車道の左側を ペイントした簡易なものから、歩道、車道と完全に分離したものまで、道幅や交通状況に応じたものが作られている。

また、今年6月1日から一部改定した道路交通法が施行される。ここには、原則として自転車は車道を走ること、歩道走行は例外であることなどが明記されてい る。幼児、高齢者のほか、車道通行が困難な状況と判断されれば、「歩道通行可」の標識がなくても歩道を通行できる点が新しい。

自転車が当事者となった事故は、06年には全国で17万件余を数え、10年前と比較して約2割も増えた。自転車レーンの社会実験や道路交通法の改定を機 に、自転車が安全に走行できる環境を整える方向に政策を変えることによって初めて、自転車の未来は開けるのではないだろうか。

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カナダ・バンクーバー
高速道にも自転車レーン

カナダの中でも自転車をめぐる環境が整っていることで知られるバンクーバー。ガソリン代の高騰でにわかに自転車ブームではあるが、さらなる利用促進には住 民意識の向上がカギとなっている。

無料でバスにも積める

バンクーバー市を中心に周辺22市町村からなるメトロバンクーバーには、公園やダウンタウンの自転車専用レーンや、郊外の一般道、さらには、日本では考え られないが高速道路にまでサイクリングロードが張り巡らされている。1990年代前半から始まったサイクリングロード整備計画によって、現在では全長 500キロ以上にも及ぶ。サイクリングロードの地図はウェブサイトから無料でダウンロードでき、サイクリストたちに重宝されている。

さらに、公共交通機関であるバスやモノレール、シーバス(ダウンタウンとノースバンクーバー市を結ぶ連絡船)の総運行便の98%で自転車を搭載で き、追加料金も要らない。他にも、93年以前に製造された排気ガス放出量の多い車を廃棄して自転車を購入した場合、購入価格の半額もしくは最高500ドル までの補助金を受け取ることができるという、ブリティッシュコロンビア州政府による「スクラップ・イット・プログラム」も96年から実施されている。

利用増のカギは住民意識向上

信号待ちをする自転車や路線バスなどは、それぞれに決められたレーンを走る。

信号待ちをする自転車や路線バスなどは、それぞれに決められたレーンを走る。

しかし、自転車利用者に配慮しているかに見えるこの街でも、住民は生活の足としてまだまだ自動車を選択している。同市の公共交通機関と道路整備を管 轄するトランスリンク社の調べでは、住民の60%が 自転車を所有しているか、利用できるにもかかわらず、5キロ以内の外出先に自転車で出掛けるのはわずか2%で、40%は自動車を利用しているという。残念 ながら、自転車がレジャーの域を脱していないのが現状である。 州政府は今年7月1日から、ガソリンなどへの環境税を増税する。トランスリンク社も、自転 車専用レーンを一層充実させるとともに、無人レンタル自転車システムを試験的に開始する予定。様々な形で自転車の利用を促し、住民意識向上につなげようと している。(バンクーバー=三島直美)

あなたもこれで自転車通に
自転車トリビア

◆世界の年間自転車生産台数は1億500万台。
(2004年 Worldwatch Institute調べ)

◆そのうちの5840万台が中国製。2位はインドで1200万台。

◆アメリカ・日本で「KEIRIN」用の自転車がリスペクトされ、 変速機を装備しない自転車が大都市で人気。理由は細いスチール製のフレームの美しさと、シンプルで壊れにくい構造。

◆競輪で使われている自転車の20%がブリヂストン製。

◆週に1度チェーンに油をさし、タイヤの空気を充填するだけで、 寿命が延び、走りが格段に快適になる。

2010年3月1日(月)19:12

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