エネルギーも「エシカル」が問われる

東京電力のエネルギー別電力構成比(出典:東京電力 HP)

世界が固唾を呑んで見守る福島原発事故。28日、原子力安全・保安院は、敷地内で検出されたプルトニウムの値を踏まえ、原子炉からの核燃料流出可能性を認めた。市民は放射能と被曝の恐怖にさらされている。米仏など海外支援が強化される中、暴走する核燃料をいかに沈静化するか。原子力を利用する企業の社会的、倫理的責任が問われている。

■温暖化防止に原発は必要か

東京電力は、基幹電源として原発を推進してきた。全供給量に対する原発の割合は2009年で28%、2019年の目標は48%だった。燃料供給の安定性や温室効果ガスを排出しない環境性、低コストの経済性を原発の利点とした。

化石燃料の乏しい日本のエネルギー自給率は18%(原発含む)。安全さえ担保できれば、燃料リサイクルが可能な原子力は妥当だったかもしれない。

世界的にも原発の拡散は予想される。新興国のエネルギー需要増加や温暖化対策のためだ。国際エネルギー機関(OECD/IEA)は、2050年のCO2排出量を2005年レベルに戻すための「BLUE シナリオ」を描く。「エネルギー技術展望 2008」は、原発を毎年32基新設すれば2050年に予測されるCO2の排出を6%削減することに貢献すると試算する。

2050年まで二酸化炭素排出抑制するために必要な平均年間必要投資(出典:国際エネルギー機関のエネルギー「技術展望2008」)

IEAは、太陽光・風力・地熱など再生可能エネルギーへの転換を期待する一方、原発否定の立場ではない。

■プルトニウム社会からエシカルへ

物理学者の故・高木仁三郎氏は著書「プルトニウムの恐怖」(岩波新書、1981年)で、より巨大化複雑化していく原発施設をバベルの塔になぞらえ、警鐘を鳴らす。

プルトニウム(Pu)は、カリフォルニア大学で新元素として1940年に発見された。核分裂を起こしやすい性質は、やがて国家の「マンハッタン計画」に取り込まれ、長崎の原爆となる。半減期が2万4千年と長く、人体に吸収されると強い発がん性を持つことで「悪魔の元素」とも呼ばれる。

Puは発電でも時代の寵児だった。ウランから生成され、Pu自体も燃料となる。高速増殖炉(国内では「もんじゅ」)は、燃焼しないウランからPuを生成する施設として経済的期待を背負う。世界的なエネルギー需要の拡大で、ウラン価格の高騰が予測されるからだ。

高木氏は、Puがもたらす社会的悪影響を危惧した。その物理的危険性が高機密で陰湿な管理社会を生むのではないかと。経済的スケールメリットを求める巨大産業は、技術・管理・行政など専門を細分化し、単一機能にのみ忠実な人間を生み出しはしないかと。

予見されたプルトニウム社会は、事故の深刻化を招いていないだろうか。

原子炉のような「閉鎖系」でなく、自然や社会に開いた倫理的システムを氏は説く。エネルギーの問題は「ひとりひとりの生活から発して、どんな社会を構築するかに帰着する」と。(オルタナ編集部=有岡三恵 2011年3月31日)

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オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

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