価格設定で脱原発推進、チューリッヒ

2035年までに原子力利用の中止を決めたチューリッヒ。ジュネーブやバーゼルは「脱原発」を完了している(写真提供:ewz)

国の決断を待たずとも、地方都市単位から「脱原発」はできる。そのヒントを与えてくれるのが、スイスのチューリッヒだ。人口38万5000人の同市は、長年に渡り先進的なエネルギー政策を実施してきた。2008年には住民投票により、2035年までに原子力利用を中止し、2050年までに1人頭のCO2排出量を1㌧に減らすことを決めている。

チューリッヒの市営エネルギー会社ewzは、こういった市の政策を反映して、2006年に電力商品のエコロジー改革を行なった。その仕組みはこうだ。

まず、100%再生可能な電力商品を3種類、原子力を含む電力商品を一種類準備した。そして、全ての顧客に自動的に供給される電力の基礎商品を、95%の従来水力と5%の新自然エネルギーから成る電力に切り変えた。原子力の入った電力商品を望む顧客は、別途申し込む。価格は、家庭向けの日中料金で、再生可能な電力が18円、原子力を含む電力は17円(kWhあたり)。価格差を最小に設定することで、顧客が再生可能電力を選びやすいよう工夫した。

ewz社では、改革を実施する1年前から、様々なキャンペーンを展開。「あなたの電力を選んで下さい」と、熱心に呼びかけた。その結果、個人客で80%、企業客では60%程度が再生可能電力を選んでいる。こうしてewz社の電力供給に占める原子力の割合は、2005年に58%だったのが、2009年には26.7%まで減少した。ちなみに、69%は再生可能電力、3.7%はゴミ発電が担う。

また同社では、法人顧客が州や国の機関と省エネ目標を定め、計画通りに実行した場合には、電気代を10%割引く制度を導入。これを利用する企業では、年2.7%の節電が実現されおり、全国に応用できるモデルとして注目されている。

スイスの脱原発のための施策決定はこれからだが、先進的な自治体では多くの有効な方策が実証されている。それらは日本のエネルギーシフトにも役立つのではないか。(ベルン 滝川薫)

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オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

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