電力供給拡大、発送電分離が一案

石川和男東京財団上席研究員

東京電力福島第1原発の事故を受けて電力体制の見直し議論が始まった。焦点が東京電力の経営体制、そして賠償の行方だ。経産省で電気事業法などエネルギー行政にかかわり、現在は政策研究・提言を行う石川和男東京財団上席研究員に聞いた。(聞き手・オルタナ編集部=石井孝明)

――現在浮上する「発送電分離」の議論をどう考えるか。

石川・私は東京電力管内での発送電分離はありえると思う。理由は電力の供給不足が長期化するためだ。東電の原発の再稼働は福島では不可能で、新潟も停止が長期化しそうだ。

東電は資金的に厳しくなり、発電所の増設は難しい。発電事業への新規参入者が利益を得る仕組みを作り、供給の拡大策を考えなければならない。また自然エネルギーの普及の拡大も世論が求めている。送電網を開放、使いやすくする仕組みを検討する中で、発送電の分離は手段の一つになる。ただし、その中身次第で効果は変わるだろう。

――全国的に地域独占を壊して発送電分離を広げる必要はあるだろうか。

他地域では現時点で行う必要がない。企業と国民のニーズの中心は「電力の安定供給」だが、それが適切に行われているためだ。

私は過去2回にわたり電気事業法の改正にかかわり、発送電分離などの電力自由化を検討した。やり方次第で競争の拡大、電力価格の下落誘導、自然エネの普及促進などの成果があると考えた。しかし「これまでうまくいったのに、なぜ今変えるのか」という、省内外の主張を突き崩せなかった。

――原発事故の賠償方法が問題になっている。政府案では賠償機構を作り、国が支払う形だが、資金の出し手は決まっていない。

残念ながら負担の財源は電力料金に上乗せする新税しかないだろう。財政事情から考えれば、政府・財務省が一般財源から支出することはない。また東電の資産に限界があり、しかも現時点では損害額が分からない。

具体的な提案として、電源開発促進税の衣替えがある。この税は電気料金と同時に1世帯1カ月約110円徴収されるが、倍増すれば約3300億円の増収だ。これを事故被害者の救済に使うことが現実的ではないか。

また私は東京電力で働く人の雇用を守るべきと強調したい。もちろん原発事故をめぐる責任の追及を行わなければならないが、東京電力の社員に「解雇」という形で責任を取らせるのは酷だ。

原発事故の問題では、誰もが満足できる解決策はない。被害者を救うことを第一に考え、それと東電が支払えないという現実を見ればすべての人が損害を引き受ける仕組みを考えざるをえないのではないか。

――内閣府の国家戦略室、また経産省から電源で原発を使う提言が事故後に繰り返された。

エネルギーの未来は国民の合意に基づくものであるべきだ。参考の意見ならともかく官僚が前面に立って主張する態度は疑問だ。しかも現時点で「推進」を訴えることは「空気がよめないKY」と言われても仕方がない。

私は政策の実現可能性を考えれば、原発増設という選択肢は当面ないと考えている。経産省や東電が原発政策の転換を恐れている姿を見せるのは拙い。それをコントロールできない政治の責任も大きい。

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オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

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