「原発事故、起こった後の悲劇を見つめてほしい」――映画「カリーナの林檎」の今関監督に聞く

カリーナの森 映画パンフレット

1986年に起こったウクライナの原発事故を題材にした映画「カリーナの林檎~チェルノブイリの森~」が11月中旬から公開されている。今関あきよし監督に、映画に託した思いを聞いた。

■美しいファンタジーが伝える恐怖
この映画は事故後に放射能汚染の危険のある村から疎開した8歳の少女カリーナの目線でつづられたファンタジー。

事故後に母親は原因不明の病気になり入院。父親は出稼ぎに、祖母は避難を拒否して原発の近くに住み続ける。一家が離散してしまうのだ。

カリーナは母から「チェルノブイリには悪魔の城があり、そこで悪魔が毒をまき散らしている」と聞かされる。自分も病気になったカリーナは悪魔に悪いことを止めてほしいと懇願するために1人チェルノブイリに向かって歩き始めたのだが――。

原発の是非を巡る主張、放射能の危険を語る場面はほとんどない。美しいウクライナの自然や、無人の村、病気に苦しむ人々、カリーナの無邪気な姿を淡々と伝える。

その描写ゆえに、見る人の心に原発事故の悲劇が深く突き刺さる。

映画の完成は2003年だ。今関監督は「十七歳」など、思春期の少女の輝きをテーマにした映画をつくって高い評価を受けてきた。

原発問題に関心があり、ウクライナを視察して事故後の混乱に衝撃を受けた。当時、チェルノブイリ事故は日本で忘れられていた。「私は原発に関する多くのことに疑問を持つが、『反』でも『推進』でもなく『考』(こう)原発を呼びかけるためにつくった」という。

今関あきよし監督

取材のために訪れたウクライナの小児病院で白血病、原因不明の難病に苦しむ子どもたちを前にして泣き出しそうになった今関監督に、小児科医が諭した言葉が忘れられないという。

「決して泣かないでください。泣いても問題は解決しないのだから」。これをきっかけに、今関監督は映画製作に没頭した。

そして脚本、監督、プロデューサーとして、私財1500万円をつぎ込んでこの映画を完成させた。

■映画は日本に住む「私たちの問題」
ところが今関監督は2004年に児童買春禁止法違反などの罪に問われて有罪判決を受け07年まで服役。

罪の償いのために、この映画の公開を自ら止めた。チェルノブイリ25周年の今年に公開予定だったが、福島の原発事故の後で「悲劇に便乗するのは嫌だった」と公開を再び延期。しかし福島に取材、撮影に向かい、現地の人々の苦悩を見て考えが変わったという。

「日本ではウクライナと同じように、原発事故後の問題が深刻になるでしょう。被災者の一家離散、見えない放射能の恐怖、健康被害の可能性に、私たちは向き合うことになります。映画の意味が2003年と変わってしまいました。この映画の情景を、私たちの未来の姿として受け止めて、考えてほしい」

今関監督は、映画が末長く、そして多くの人に見られ続けることを祈っている。
(オルタナ編集部=石井孝明)

『カリーナの林檎』オフィシャルサイト
今関監督撮影の福島第一原発と周辺地域の映像、予告編など
映画は東京・シネマート六本木、大阪・梅田ガーデンシネマなどで11月19日から公開中

 

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オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

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