経営そのものにも「ダブル・マテリアリティ」観点を

記事のポイント


  1. 自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)が9月に最終提言を公表した
  2. 企業が環境・社会に与えるインパクトも見るダブル・マテリアリティも採用
  3. 開示だけでなく、経営そのものにもダブル・マテリアリティ観点が必要に

自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)は9月18日、自然資本や生物多様性に関する開示枠組み(TNFDフレームワーク)の最終提言を米ニューヨーク証券取引所で公表しました。気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)がシングルマテリアリティであるのに対し、TNFDはダブル・マテリアリティも採用しています。(オルタナ編集委員/サステナビリティ経営研究家=遠藤 直見)

TCFDとTNFD、マテリアリティの違い

TNFDフレームワークは、企業がバリューチェーン全体で自然に与える影響、リスクと機会を評価・報告するための枠組みです。自然資本や生物多様性に配慮する経営に投融資を呼び込むことを狙っています。2022年から試作版(β版)を4回発表し、改良を重ねてきました。

既に日本企業でもキリンホールディングス、アセットマネジメントOne、三井住友フィナンシャルグループ、花王、KDDI、NECなどが試作版に基づくTNFDレポートを発行しています(環境報告書などでの報告を含む)。

TCFDとTNFDは、枠組みの構成(「ガバナンス」「戦略」「リスク管理*TNFDでは、リスクと影響の管理」「指標と目標」の4つの柱)や用語については多くの類似点があります。一方、幾つかの点で違いがあります。最大の違いの一つと言えるのが「マテリアリティ(重要課題)」です。

マテリアリティの考え方には「シングルマテリアリティ」と「ダブル・マテリアリティ」があります。シングルマテリアリティは「財務的マテリアリティ」とも呼ばれます。環境・社会の課題が企業活動やビジネスモデルに及ぼすリスクと機会を重視する投資家視点の考え方です。

ダブル・マテリアリティは「財務的マテリアリティ」と「環境・社会的マテリアリティ(インパクトマテリアリティ)」を合わせたものです。

シングルの視点に加えて、企業活動やビジネスモデルが環境・社会に与える影響(インパクト)も重視する考え方です。投資家視点に加えて、顧客・消費者、従業員、取引先、NPO/NGO、地域社会、行政などマルチステークホルダー視点を統合したものです。

TCFDは、気候変動が企業に及ぼすリスクと機会を重視するシングルマテリアリティの観点です。それに対しTNFDは、自然が企業に及ぼすリスクと機会だけでなく、企業の自然との依存関係や自然への影響も重視するダブルマテリアリティの観点も採用しています。

TNFDの開示推奨項目には、企業が水や土地などの自然資本を利用することで影響を受けると考えられるステークホルダー(先住民族や地域コミュニティ含む)に関する企業の人権方針とエンゲージメント活動、それらに対する取締役会による監督が含まれています。これはダブルマテリアリティの観点での重要なポイントです。

TNFDに基づく開示では、企業がいくらリスク管理と機会創出に優れていても、自然やステークホルダーに対してネガティブな影響を与え続ける場合は低い評価を受けます。反対に、ネガティブな影響の抑制やポジティブな影響の創出に取り組む企業は高い評価を得ることになります。

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遠藤 直見(オルタナ編集委員/サステナビリティ経営研究家)

遠藤 直見(オルタナ編集委員/サステナビリティ経営研究家)

東北大学理学部数学科卒。NECでソフトウェア開発、品質企画・推進部門を経て、CSR/サステナビリティ推進業務全般を担当。国際社会経済研究所(NECのシンクタンク系グループ企業)の主幹研究員としてサステナビリティ経営の調査・研究に従事。現在はフリーランスのサステナビリティ経営研究家として「日本企業の持続可能な経営のあるべき姿」についての調査・研究に従事。オルタナ編集委員

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キーワード: #生物多様性#脱炭素

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