森 摂・オルタナ代表取締役:わがパーパス(67)

オルタナはこのほど、別冊「72組織 わがパーパス」を発行しました。省庁・自治体・株式会社・非営利組織(大学や病院を含む)など72組織のトップに、パーパス(存在意義)を執筆していただきました。その一部をご紹介します。

■森 摂・オルタナ代表取締役・「オルタナ」編集長
ビジネスの軸を23.4°傾ける

ビジネス情報誌「オルタナ」は2007年3月に創刊しました。創刊した背景には「20世紀型の資本主義は早晩行き詰まるのではないか」「21世紀は、より理想的な資本主義が必要だ」という新聞記者時代からの問題意識がありました。オルタナは英語のalternative(もう一つの選択肢)から採りました。

創刊号の第一特集は「良心が経営を変えた:環境・健康・社会貢献-他とは違う51社」として日米欧から企業事例を3分の1ずつ集めて紹介しました。いま振り返ると、この見出しは50点の出来栄えです。

経営者としての「良心」が必要なのは言うまでもありませんが、むしろ企業や組織が21世紀を生き抜くためには、サステナビリティやCSR、ESG(環境・社会・ガバナンス)といった価値観が不可欠なのです。

2015年9月25日にSDGs(持続可能な開発目標)が国連サミットで採択され、その3日後の9月28日にGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が国連責任投資原則(PRI)に署名したことで、サステナビリティという価値観を経営に実装することが、すべての企業・組織にとって急務となりました。

同年12月には気候変動枠組条約締約国会議で「パリ協定」も採択され、気候変動に対する具体的かつ野心的な取り組みが求められました。

創刊当時はSDGsもパリ協定も無かったので、「50点の見出し」でも仕方なかったのかもしれません。残りの50点は、世界や日本が後から変わることで埋めてくれた、と考えています。

2011年の東日本大震災を機に、企業と社会の関係が改めて見つめ直され、「サステナビリティ元年」である2015年には、企業の価値観を変える動きが相次ぎました。これらの動きとともに、当社の役割も年々、増していることを実感しています。

オルタナのパーパスは「ビジネスの軸を23.4°傾ける」を世の中に広めることに尽きます。「23.4°」とは地軸の傾きです。地球が奇跡的に23.4°傾いたおかげで地球上に四季が生まれ、豊富な生物多様性が実現したのです(この生物多様性も危機にさらされています)。

23.4°とは、スキーの斜面で言うと中級くらいで、緩やかです。つまりサステナビリティやCSR、ESGは今までのビジネスを否定しているわけではなく、ビジネスの軸を少しだけ傾けてほしいというメッセージです。

ビジネスの価値観を少しだけ変えることで、企業の存在はより持続的になる――。メディアとして、コンサルティング企業として、そして「サステナ経営/CSR検定」の主催者として、このメッセージを世の中に伝えていくことこそが、オルタナのパーパスです。

冒頭の「21世紀は、より理想的な資本主義が必要だ」という思いとは真逆に、いま世界では「分断と対立」が先鋭化し、その象徴として英国がEUを離脱しました。各国では移民や異文化に対する反感も増幅しました。気候危機や人口爆発(国内では人口減少)など、内外の社会課題は創刊時よりむしろ顕在化しています。

その現状を世の中に伝えていくことも弊社の大きな使命です。

森 摂(オルタナ編集長)

森 摂(オルタナ編集長)

株式会社オルタナ代表取締役社長・「オルタナ」編集長 武蔵野大学大学院環境学研究科客員教授。大阪星光学院高校、東京外国語大学スペイン語学科を卒業後、日本経済新聞社入社。編集局流通経済部などを経て 1998年-2001年ロサンゼルス支局長。2006年9月、株式会社オルタナを設立、現在に至る。主な著書に『未来に選ばれる会社-CSRから始まるソーシャル・ブランディング』(学芸出版社、2015年)、『ブランドのDNA』(日経ビジネス、片平秀貴・元東京大学教授と共著、2005年)など。環境省「グッドライフアワード」実行委員、環境省「地域循環共生圏づくりプラットフォーム有識者会議」委員、一般社団法人CSR経営者フォーラム代表理事、日本自動車会議「クルマ・社会・パートナーシップ大賞」選考委員ほか。

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キーワード: #サステナビリティ

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