サステナ経営塾第19期下期第1回レポート

株式会社オルタナは2023年10月18日に「サステナ経営塾」19期下期第1回をオンラインとリアルでハイブリッド開催しました。当日の模様は下記の通りです。

①ダイバーシティ経営の重要性と実践

時間: 10:20~11:40
講師: 堀江 敦子氏(スリール株式会社 代表取締役)

第1講には、スリールの堀江敦子社長が登壇し、「ダイバーシティ経営の重要性と実践」について講義した。主な講義内容は次の通り。

・「自分らしいワーク&ライフの実現」を目指すスリールは、「女性活躍から始めるDEI経営」の支援を行っている。

・ダイバーシティ(多様性)&インクルージョン(包括・包含・⼀体性)とは、⼈材の多様性を認め、受け入れて⾃分と他者のその⼈らしさを活かすこと。ダイバーシティ経営とは、多様な人材を生かし、その能力が最大限発揮できる機会を提供することで、イノベーションを生み出し、価値創造につなげている経営を意味する。

・最近では、「公平性(エクイティ)」という概念が加えた「DEI」を掲げる企業も増えてきた。堀江講師は「みんなに同じ自転車を与えても、乗りこなせる人は一部の人だけである。それは“平等”であるかもしれないが、“公平”とは言い難い。それぞれにあった自転車を与えることで、それぞれが乗りこなすことができる(活躍することができる)。それが公平性(エクイティ)です。」と説明する。

・ダイバーシティ経営への関心が高まっている背景には、ESG投資の拡大やコーポレートガバナンス・コードの改訂などがある。世界の潮流を受けて、日本政府は2022年8月、情報開示のガイドライン「人的資本可視化指針」を公表。有価証券報告書に「管理職比率」「男女間賃金格差」「男性の育休取得率」について開示を義務付けた。

・しかし、ジェンダーギャップ指数(2023年版)で、日本は、世界146カ国のうち125位だった。堀江講師は「経済と政治参加分野でのギャップが世界平均以下。日本は大きく遅れている」と危機感を示す。

・ダイバーシティ経営の効果には、商品・サービスの開発、改良といった「プロダクトイノベーション」、業務効率化などの「プロセスイノベーション」、「(顧客や市場など)外的評価の向上」、従業員満足度といった「職場内の効果」があるという。

・多様な人材のなかで、なぜ「女性、育児期社員」なのか。堀江講師は、「⼦育てしながらキャリアアップできる状態は、性別や年齢、育児介護関係なく、多様な人材が活躍できる状態であるということ。女性活躍推進を第一ステップにして、DEIを進めてほしい」と語る。

・堀江講師は、「『女性社員は昇進する気がない』などといわれるが、その裏には、環境や構造上の問題があるはずだ。そうした組織では、女性だけではなく、育児期の男性・若手社員も不満を抱えている場合も多い」と説明する。

・DEIを推進するためには、「人材戦略のなかにDEIが位置付けられているかどうか」、つまり「経営とのつながりが明確であるか」が重要だという。そこで、堀江講師は、CEO直下に「人財委員会」を設置するなど、「経営戦略・⼈財戦略」として話し合える場づくりを提案する

・堀江講師は「ダイバーシティ経営を実践するための簡単で、すぐできる方法を聞かれるが、それは『ない』。時にハレーションが起きることもあるが、継続的に根気強くやれば確実に変わっていく。会社にあったやり方を本気で実践していくことが重要だ」と話す。

・1990年代にデイビッド・ウルリッチ・米ミシガン大学教授(当時)が提唱した「人事の4つの役割」を紹介し、「サステナビリティ担当者は、経営陣や人事と連携しながら『変革エージェント』になってほしい」と強調した。

②ESG情報発信とIR戦略

時間: 13:00~14:30
講師: 荒井 勝氏(NPO法人日本サステナブル投資フォーラム 会長)

第2講には、NPO法人日本サステナブル投資フォーラム荒井勝会長が登壇し、ESG情報発信とIR戦略をテーマに講義した。主な講義内容は下記の通り。

・ESG投資は、年金基金・ 金融機関・個人などの投資家が、投資対象となる企業の「環境・社会・ガバナンス課題」への取り組みを調査し、その評価を財務情報による分析と統合して、企業の将来価値の判断に反映させて投資する投資手法である。

・ESG投資は、世界の機関投資家による投資の主流になった。2023年9月現在、国連責任投資原則(PRI)への署名機関数は5331、日本の署名機関も125機関。世界の機関投資家の半数が署名した。運用資産総額は2021年3月末で121.3兆ドル(3826の署名機関)。

・ESG投資の歴史は、1920年代に始まった米国の「社会的責任投資(SRI)」に遡る。アルコールやタバコ、ギャンブルなどに関連する企業を投資対象から除外した。「ネガティブ・スクリーニング」の手法である。

・1960年代後半から80年代にかけては、社会運動が盛んとなり、関連企業への投資を中止するようになった。人種差別に関する公民権運動や、ベトナム戦争で使用されたナパーム弾製造に対する全州規模の抗議運動、公害による自然破壊、南アフリカのアパルトヘイト(黒人隔離)に関する米国製造業への南アからの撤退要求などの課題があった。

・2000年代にはサステナビリティ(持続可能性)の概念が国際社会に広がったことで、投資家も個別企業の社会的責任から、サステナブルな社会を築く投資を意味する「サステナブル投資」の観点を重視するようになり、現在に至る。

・日本でESG投資が本格化したきっかけは、第2次安倍政権の日本再興戦略(2013年)である。コーポレートガバナンス・コードの見直し、公的資金などの運用の在り方を検討することが取り上げられた。日本版スチュワードシップ・コードの取りまとめ、会社法の改正による社外取締役の導入も進めた。

・日本の状況が大きく変わったのは、2015年9月に年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)がPRIに署名し、その資金を運用する受託機関に対してESG投資を働き掛けたことがきっかけだった。2022年に投資残高は5493兆円となっている。

・2019年から伸び始めているのが「債券」である。世界的なグリーンボンドやサステナブルボンド市場の拡大と軌を一つにしている。公募投資信託のESG投資も2020年から大きく伸び始めた。

・現在のESG投資は、新たな「第3ステージ」に突入したと考えられる。第1ステージはPRIが策定された2006年に始まった。第2ステージは、企業や評価機関によるESG情報の開示が充実し、ESG投資に使えるデータが一通り揃い、さらに内容の充実が図られた2010年代である。2021年以降を「第3ステージ」と捉える。

・2021年には、EUではタクソノミーによるグリーンである分類や定義、「サステナブルファイナンス開示規則(SFDR)」が施行され、グリーンウォッシュに対する監視が強化された。今後は、法定開示の整備がグローバル基準で進む。

・日本でも、2020年3月以降は「企業内容等の開示に関する内閣府令」の改正により、有価証券報告書での役員報酬の開示や政策保有株の開示が拡大され、2023年1月の改訂では、サステナビリティ全般に関する記載が新設された。また人的資本や多様性に関する開示も必須となっている。

③企業事例: ネスレ日本のCSV戦略

時間: 14:35~15:55
講師: 嘉納 未來氏(ネスレ日本株式会社 マーケティング&コミュニケーション執行役員 コーポレートアフェアーズ統括部長)

第3講には、ネスレ日本のマーケティング&コミュニケーション執行役員の嘉納未來コーポレートアフェアーズ統括部長が「ネスレ日本のCSV戦略」をテーマに講義した。主な講義内容は次の通り。

・ネスレ日本は「サステナビリティ」や「CSV」、「栄養・健康・ウェルネス」は全ての事業・間接部門が行うという考えから、「サステナビリティ」を冠した専門の部署は置いていなかった。サステナビリティの取り組みや社員の知識共有、マインドセットに取り組むために、2023年春に専門のチームをつくった。

・ネスレの創業者であるアンリ・ネスレはヨーロッパでの栄養不足による乳幼児の死亡率の高さが社会課題となっていることから、安全で栄養価の高い新しい乳児用乳製品を開発し、それを製造販売する会社として創業。嘉納氏は「創業当時から社会課題を事業で解決するCSVの考え方が根底にあった」と説明した。

・パーパスには、食品を通じて人々の健康の質の向上に寄与する力を解き放つという思いを込め、将来世代にも目を向けたものとなっている。

・1934年の「ネスカフェ」誕生の時から社会課題の解決を柱に据えていた。1930年代初頭にブラジルのコーヒー豆が大豊作で価格が暴落し、豆の海洋投棄や焼却処分が発生していた。その問題を解決するため長期保存が可能なソリュブルコーヒー「ネスカフェ」が誕生した。

・コーヒー生産適地が2050年までに最大で半減するリスクがある。コーヒー栽培を持続可能にするため、100%責任ある調達や再生農業を通じたコーヒー豆の調達、GHG排出量50%削減などを目標とした「ネスカフェプラン2030」を掲げる

・取り組み事例には、土壌の健全性と肥沃度を高める再生農業の実践、コーヒー農家へのサポートを通じた再生農業に移行していくことの支援、アグロフォレストリー(森林農業の活用)がある。

・すでに全世界のネスレのコーヒーの87%が責任ある調達の実現や、再生農業への移行に向けては2022年の1年間で12万5000人の農家を支援した。

・国内でも沖縄で現地の自治体や大学などと産官学連携で「ネスカフェ 沖縄コーヒープロジェクト」で国産コーヒー豆の特産品化を目指す。

・パッケージではリサイクル・リユースを進めていて、パッケージデザインの見直しや紙の詰め替え容器の採用でプラスチック使用量減に努める。

・「ネスカフェ エコ&システムパック」では自治体などとも連携して空き容器を回収し、衣類などへのアップサイクルを行っている。

④脱炭素と企業戦略

時間: 16:10~17:30
講師: 三宅 成也氏(株式会社再生可能エネルギー推進機構(REPO)代表取締役)

第4講には、再生可能エネルギー推進機構代表取締役の三宅成也氏が登壇し、世界から見た日本の再可能エネルギー導入状況や企業における再可能エネルギー導入のポイント解説を行った。主な講義内容は次の通り。

・日本の電力に占める再可能エネルギーの割合は22%で、未だに約8割を火力発電に頼っている現状だ。中国の31%や、インドの23%よりも遅れている。

・その背景には、①化石燃料の有限性を課題として捉えていないこと②日本政府が原子力発電を残す意向であること③電力の自由化が上手く機能していないことを挙げる。

・現在稼働中の原子力発電所は10基あるが、5年以内に使用済燃料が保管可能容量を超える見込みで、原発は稼働しなくなる可能性が高い。使用済み燃料を粉砕し、プルトニウムを抽出してもう一度使用する計画も目途が立っていない。

・日本政府のGX(グリーントランスフォーメーション)実行会議で進められている「水素・アンモニア混焼」は火力発電の延命策に過ぎず、G7各国や環境団体は厳しく批判している。そもそもアンモニアの製造も化石燃料に大きく依存している。

・2016年から始まった電気小売業の参入自由化は、大手電力の不正行為もあって、自由競争が上手く起こらなかった。

・一方、再生可能エネルギーは誰でも発電所を持つことできるため、これまでの価格カルテルから脱却できるとして期待がかかる。発電事業者と消費者の仲介人であるアグリゲーターが再生可能エネルギーを集め、天気に左右されやすい再生可能エネルギーの電力予測を行う。

・コーポレートPPAは、需要家が発電事業所と長期で直接売電契約を交わす仕組みだ。価格が安定している再生可能エネルギーを導入できるメリットがある。

・コーポレートPPAを行う企業は近年増えており、日本では花王やキリンホールディングスが導入している。

・三宅成也氏は、「今後は、企業が発電所から電力を買う時代になる。発電事業者側も長期の契約によりに安定的な発電事業を営むことができ、化石燃料に依存しない賢い方法の一つとして注目されていくだろう」と語った。

susbuin

サステナ経営塾

株式会社オルタナは2011年にサステナビリティ・CSRを学ぶ「CSR部員塾」を発足しました。その後、「サステナビリティ部員塾」に改称し、2023年度から「サステナ経営塾」として新たにスタートします。2011年以来、これまで延べ約600社800人の方に受講していただきました。上期はサステナビリティ/ESG初任者向けに基本的な知識を伝授します。下期はサステナビリティ/ESG実務担当者として必要な実践的知識やノウハウを伝授します。サステナ経営塾公式HPはこちら

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