日本のNDC案は1.5℃目標に整合せず、国内外から批判相次ぐ

記事のポイント


  1. 「1.5℃目標」達成に向けて、各国の排出削減目標(NDC)の提出期限が迫る
  2. 日本は、「2035年までに2013年比で60%減」とする案で審議が進む
  3. これに対し、国内外から「1.5℃目標」に整合しないとの批判が相次ぐ

日本政府が11月25日に示した次期NDC案(温室効果ガスの国別削減目標)に対して、国内外の環境NGOなどから批判が相次ぐ。次期NDC案では、2035年度までの削減目標として、「2013年度比で60%減」を掲げた。だが、パリ協定で定めた「1.5℃目標」に整合しないとして、「論外」という声も上がった。(オルタナ副編集長=北村 佳代子)

11月25日、NDCを決める審議会で出た政府案が、「2035年度までに2013年度比で60%削減」とする案だ。

パリ協定で定めた「1.5℃目標」に整合した削減ペースは、2035年度までに「2019年度比」で60%削減だ。

日本の基準年である2013年度比で言えば、2035年度までに「66%減」が求められている。「2019年度比」で見れば、政府案は「51%削減」にとどまり、「1.5℃目標」に整合していない。

気候シンクタンクのクライメート・インテグレートの平田仁子代表は11月29日、メディア向けセミナーに登壇し、「1.5℃目標」に整合していない政府案に対して、「66%を下回る目標は論外」と断じた。

NDCに関しては、その決定プロセスについても、野心的な目標設定を提言しようとした審議会委員の声が取り上げられないなど、その不透明な「決め方」は、また別の議論を呼んでいる。(参考記事:揺れるGHG目標(上)「結論ありき」の審議会に疑問の声相次ぐ

国内からも「今、声をあげなければ」

日本気候リーダーズ・パートナーシップ(JCLP)は12月3日、「今、声をあげなければ」と、1.5℃目標のための緊急会見を開いた。JCLPは、脱炭素社会の実現のために2009年に発足し、リコーやイオンなど245社が加盟する日本独自の企業グループだ。

超党派議連が「1.5℃目標」の重要性を訴えた=12月3日、都内で

JCLPは、日本政府が現在審議中の「2013年度比60%減」は不十分とし、さらなる野心的な目標案として、2035年までに2013年度比で排出量を75%以上削減することを求めた。もはや気候変動の影響を受けていない産業はない。

JCLP共同代表で戸田建設の今井雅則会長は、近年、熱中症による死傷災害が急増する中で、その半分が建設業で発生していると訴える。

第一次産業では、農作物の不作や漁業での漁獲量の激減もある。スポーツ業界もそうだ。長時間屋外で動くことや、雪不足による冬季スポーツなども影響を受ける。

私たちの健康にとっても大きな脅威だ。日本では2023年に熱中症で搬送されたひとは9万人を超え、死者数はここ数年、毎年1000人を超える状態が続く。これは日本だけではない。

海外でも熱波による被害は顕著に見られ、今年6月には、サウジアラビアでメッカへの巡礼で少なくとも1301人が熱中症で亡くなったことは記憶に新しい。

JCLPは同時に、2035年の電源構成で再エネ比率を60%以上とすること、さらには前述の「決め方」問題の1つとして、審議会の構成メンバーに再エネ業界関係者が少ない点を問題視した。

野心的な目標を求める声は海外からも

日本に対して野心的な気候目標を求める声は海外からも届く。海外の気候科学者や経済科学者ら39人は11月29日、日本に対し、パリ協定の1.5℃目標に整合した、野心的な目標の策定を強く求める声明を出した。

声明には、ビル・ヘア氏(クライメート・アナリティクスCEO兼上級科学者)、アンダース・レバーマン氏(ポツダム大学教授兼ポツダム気候影響研究所長)をはじめとする複数のIPCC執筆者のほか、世界的にも著名な気候科学者、気候政策専門家、経済学者らが名を連ねる。

各国でNDCの策定が進む中で、海外の有識者らがこうした声明を出すのは、日本だけが対象ではない。しかし特に日本は、G7の一国として、2035年までに日本の基準年である2013年比で約80%の排出削減を達成する、野心的な枠組み提示を求めた。

海外の有識者らはG7各国が先頭に立って野心的な目標を示すべきだと考える。パリ協定の第2条にも、先進国は、絶対量で削減目標に取り組むことによって引き続き先頭に立つべきとの規定がある。

現時点でG7の中でNDCを発表したのは英国のみだ。11月にアゼルバイジャンのバクーで開催されたCOP29で、英国が2035年までに81%削減を目指すという目標は、野心的な目標として受け止められた。

「今」が重要な背景は

今、世界が1.5℃目標を達成する可能性は遠のきつつある。2024年は、史上最も暑い年となった2023年を上回る見通しだ。2024年単年で見ても、1.5℃を超えてしまいそうな状況だ。過去17カ月の平均では、気温上昇はすでに1.6℃に到達している。

これ以上の気温上昇を食い止めるために、今すぐにでも欠かせないのが温室効果ガス(GHG)排出量の削減だ。日本として、どれだけのGHG削減をしていくのか。

2050年のネット・ゼロ(排出量実質ゼロ)を達成するための道筋を示し、2035年までの国別削減目標NDCの提出期限が2025年2月に迫る。

パリ協定では、世界の気温上昇を産業革命前の水準から「1.5℃以内」に抑えることを目指す。

2015年のパリ協定の合意の際は、平均気温の上昇を「2℃未満」に抑制し、「1.5℃以内」への抑制は努力目標だった。しかし「2℃」と「1.5℃」とでは、気候が与える負のインパクトの差が非常に大きく、2021年に英グラスゴーで開催された国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)以降は「1.5℃」が事実上の目標となっている。

2022年のG7首脳会議でのコミュニケでも、「1.5℃目標」は20回以上繰り返されるほど、重要な国際合意だ。

北村(宮子)佳代子(オルタナ副編集長)

北村(宮子)佳代子(オルタナ副編集長)

オルタナ副編集長。アヴニール・ワークス株式会社代表取締役。伊藤忠商事、IIJ、ソニー、ソニーフィナンシャルで、主としてIR・広報を経験後、独立。上場企業のアニュアルレポートや統合報告書などで数多くのトップインタビューを執筆。英国CMI認定サステナビリティ(CSR)プラクティショナー。2023年からオルタナ編集部。

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キーワード: #脱炭素

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