イカリ消毒、障がい者雇用で業務効率化とDEIを推進

記事のポイント


  1. 法定雇用率の未達成から、実雇用率2.90%に引き上げたイカリ消毒
  2. 同社では、障がい者は「助けてくれる存在」という認識が広がりつつある
  3. 同社は法対応を超えて、だれにとっても働きやすい職場環境づくりを目指す

イカリ消毒は、だれにとっても働きやすい職場環境づくりを目指す。山田隆之CSR推進部マネージャー  (後列左)は、人事部時代から障がい者雇用を進めてきた
イカリ消毒は、だれにとっても働きやすい職場環境づくりを目指す。山田隆之CSR推進部マネージャー(後列左)は、人事部時代から障がい者雇用を進めてきた

民間企業の法定雇用率の未達成から、今では、実雇用率2.90%(2023年10月現在)に引き上げたイカリ消毒(東京・渋谷)。同社では、障がい者雇用への理解だけではなく、「助けてくれる存在」という認識が社内に広がりつつある。同社は法対応を超えて、だれにとっても働きやすい職場環境づくりを目指す。

「障がい者雇用は、企業の義務であり、社会的責任(CSR)として当然取り組まなければいけないこと。しかし、法対応だけではなく、業務の効率化を進めるなど、企業にとってのメリットも大きい。社内でも『業務を助けてくれる存在』といった認識が浸透してきた」

こう話すのは、イカリ消毒の山田隆之CSR推進部マネージャーだ。人事部時代から、同社の障がい者雇用を推進してきた。同社は、本社、検査・分析センター、各地の営業所で障がい者雇用を進めながら、法定雇用率を上回る2.90%を達成した。

数年ほど前までは、障がい者を雇用しても、業務の切り出しや定着がうまくいかず、なかなか法定雇用率を達成できない状況が続いた。同社はどのように乗り越えたのか。

■  会話が苦手でも優秀な営業アシスタントに

同社にとって、転機の1つになったのが、高松営業所(香川県高松市)での成功体験だ。同所は2022年、自閉スペクトラム症(ASD)のある若手従業員を採用した。現在、彼は14人の営業スタッフを支える営業アシスタントとして活躍している。

有害生物防除のパイオニアであるイカリ消毒は、食品工場や飲食店、レジャー施設、公共施設などで、衛生管理を行う。そのため、同社従業員は現場作業が多く、資材や薬剤の事前準備と後片付けに時間を取られていた。1人あたり毎日30-60分間程度費やしていたという。

そこで1人あたりの業務負荷を分散するために、ASDのある従業員が、現場ごとに必要な事前準備を担うことになった。仕事は正確で早く、しばらくすると事前準備や後片付けの他に書類のファイリングや営業車の洗車など、ヘルプ業務全般を担当するまでになった。現場に同行するときもあり、最近はパソコン作業も学んでいる。

「彼のおかげで、営業スタッフは、お客さま対応や現場作業など、コア業務に集中できるようになった。ASDは対人関係が苦手といった特徴があるが、彼は会話 がうまくできなくても、にこっと笑うなどコミュニケーションは取れるし、成長意欲も高い。頼もしい存在だ」(山田マネージャー)

彼の成長を支えたのは、入社3年目の従業員だ。メンター役として、業務の切り出しや作業の確認を行う。本人が混乱しないように、リスト化した仕事内容を紙で渡すなど、工夫を続けた。

「彼女は、人を育てる能力がずば抜けている。どうやったら分かりやすく、正しく伝わるか。ミスが起きにくい仕組みに改善できるか。試行錯誤しながら、彼女自身も成長している。会社としても、彼女の努力をきちんと評価していきたい」(山田マネージャー)

高松営業所では、捕虫紙に必要な名前・日付をスタンプにすることで、ミスを防ぎ、作業の効率化につながった
高松営業所では、捕虫紙に必要な名前・日付をスタンプにすることで、ミスを防ぎ、作業の効率化につながった

■ さらなる障がい者雇用に意欲、高松のモデルを全国へ

雇用障がい者数は年々増加傾向にあるものの、日本全体で「働きたくても働けない人」はいまだ多い。

日本政府は、企業の障がい者雇用を促進するため、2024年4月から法定雇用率を段階的に引き上げる方針を決めた。2024年4月から2.5%、2026年7月から2.7%になる。だが、厚労省の調査(2022年)によると、2.3%の現時点でも、対象となる民間企業の法定雇用率の達成割合は半数にとどまる。

イカリ消毒は、全国80カ所にある営業所で、障がい者雇用を徐々に広げていきたい考えだ。2023年7月には、広島でも障がい者雇用を始めた。高松の成功事例を知った広島の営業所長が自ら手を挙げた。

山田マネージャーは「当社の仕事は、一人で準備をして、一人で現場に出向くなど、自己完結することが多い。しかし、だれかの助けがあれば、もっと楽になるはず。障がい者雇用は、障がい者の自立支援だけではなく、みんなの仕事を楽にして、業務の効率化を進めるというメリットがあることも、より多くの人に知ってほしい」と語る。

4人で毎月2万から2万5千枚の調査用トラップの組み立てをこなし、全国の営業所から感謝の声が届く
4人で毎月2万から2万5千枚の調査用トラップの組み立てをこなし、全国の営業所から感謝の声が届く

イカリ消毒本社でも、脳性まひや精神障害、ASDなどがあるスタッフが活躍している。メイン業務となるのが、調査用トラップの組み立てだ。現場での害虫防除に必要な資材で、全国の営業所から発注が舞い込む。4人で毎月2万から2万5千枚のトラップを組み立てるという。

「もともと試験的に始めた取り組みだったが、評判も良く、作業量も多いので、定型業務にできた。全国の営業所から、お礼の電話やメールが届き、年末にはお菓子が贈られてくることもある。そうした感謝の声が、スタッフのモチベーションになっている」(山田マネージャー)

検査・分析センターでは、障がいのあるスタッフが、検査準備や器具の洗浄、トラップ検体受付業務などにも取り組む。同社はテレワークの可能性も模索し、さらなる障がい者雇用に意欲を見せる。

イカリ消毒で雇用されている障がいを持った従業員は、ほかの従業員と同様に個人の評価に応じて昇給しているという。労働契約法に基づき、有期雇用から無期雇用への転換も可能だ。

■ だれにとっても安心して働ける職場に

障がい者雇用は、DEI(ダイバーシティ:多様性、エクイティ:公平性、インクルージョン:包摂性)を推進するうえでも重要だ。

イカリ消毒の小西正彦執行役員CSR推進部長は、「だれでも、何らかの弱さや制約を抱えている。将来的に、心身の不調に陥ったり、生活環境が変わったりすることもある。当社に『安心して働ける職場環境をつくりたい』という意思があることを従業員には知っておいてほしい。障がい者雇用の推進は、DEIの取り組みそのものであり、当社のメッセージでもある」と話す。

実際に、一般雇用から障がい者雇用に転換した社員もいるという。

同社で障がい者雇用を推進してきた小西執行役員と山田マネージャーの合言葉は、「配慮はしても、わがままはNG」だ。

「『障がい』の特性でできないのか、経験ややる気が足りないのか。見極めながら、仕事を進める必要がある。一方、障がいがある人と仕事をしていると、得意なことを探そうとして前向きな見方にもなる。チャレンジしやすい風土づくりにも有効だ。障がいの有無にかかわらず、すべての従業員が活躍できる職場環境をつくっていきたい」(小西執行役員)

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オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

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キーワード: #DEI

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