記事のポイント
- 東京都は「東京グリーンビズ(仮称)アドバイザリーボード」を設置した
- 筆者(小林光)は4回にわたりボードメンバーとして会合に参加
- 印象的だったのは、都市の緑の役割に関する視点は極めて多様だということだ
■小林光のエコめがね(35)■
東京都は、緑に関する政策や事業を抜本的に見直し、次の100年を通じて実現していくべき緑の在り方やそのための取り組みに関して検討するため、有識者の会議を設けた。多様な専門家7人が参加し、8月から11月16日まで4回の会合を開いて、東京都にかなり広範な注文を付けた。(オルタナ客員論説委員・小林 光)
このアドバイザリーボードで、筆者は議事進行役を仰せつかっていたので、自分の意見は控えめにしたが、とても勉強になった。ちなみに各会合での参加専門家の意見発表内容は、東京都のホームページで参照可能だ。
ここでの議論を聞いていて私が感じたことの一番目は、都市の緑の役割に関する視点は極めて多様だということであった。
昔ながらの農業や林業、そして修景にとどまることなく、自然の風致景観の維持、文化、休養・リラクゼーションへの貢献はもちろん、今日では、生態系を支える役割も重視される。その場合には、種の多様性や遺伝子の多様性を重んじる意味で郷土種か否かを重視する視点、グリーンインフラと言われるような防災・減災の役割、炭素の吸収源としての意義、気温の安定化や水循環の健全化に資する効果などなど、それぞれに重要だが多様な役割が力説された。
そして感じたことの二番目は、各地にある緑が、政策的には、前述した様々な視点のいずれか一つの観点で、守られ、活用されていることであった。例えてみれば、都市公園の緑は、修景の視点から取り扱われていて、生物多様性の観点をほとんど反映せずに植栽され管理されている、といったことである。
したがって、どんな緑にも横串的な評価がなされ、その効用を総合的に高めるように管理がなされるべき、と強く印象付けられた。
三番目に感じたことは、緑へのかかわりが世の中全体でいよいよ大きな転機に差し掛かっている、ということである。
国際社会では、2022年末開催の生物多様性条約第15回締約国会議(モントリオール)において、2030年までに生物多様性の損失傾向を止め、反転させ、回復させていく軌道に載せる、という国際的な枠組みを決めた。これが「ネイチャーポジティブ」の根拠であり、趣旨である。
この考えは、金融機関の共感も得て、TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)という、出資先・貸付先の企業の経営状況に関する情報開示を生物多様性分野でも行うべしとする動きにもさっそく結びついた。
ちょうど、気候変動対策の取り組みが、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)として、金融機関の取り組みへと波及していったことと同様である。
人類の営む経済などの活動が地球の生態系のよい一部になるためには、下記の図のように、いろいろな取り組みの組み合わせが必要で、ネイチャーポジティブこそ、それらを総覧する、いわば本命の取り組みといえよう。
この波は、今や自治体にも押し寄せてきた。昆明・モントリオール2050年ビジョンにある「自然と共生する世界」を実現するためには、自治体に委ねられていた行政、すなわち、都市公園政策や事業、都市再開発規制、農林業用地の取り扱いなどを漫然とこれまでと同様に継続するわけにはいかなくなったのである。
こうした感度を東京都が持っていたことは大変にありがたい。我が国の自治体にとっては、まずは、実例を示すことが有益ではないかと思うからである。
私としては、緑の持つ多様な効用を横串的に維持増進していくための、今はまだない、政策の新規の仕組みをこそ東京都が先鞭をつけて開発していくことを期待している。このアドバイザリーボードで出された意見の具体化は、都の行政官に委ねられている。その奮起を強く望む。