「GX政策は『1.5℃目標』と大きくズレ」: NGO調査

記事のポイント


  1. 英シンクタンクは日本政府のGX政策を調べたレポートを公表した
  2. GX政策の大部分がパリ協定で定めた「1.5℃目標」とズレしていると指摘した
  3. 経団連など一部の団体の意見を取り入れてまとめた可能性があるという

英・シンクタンクのインフルエンス・マップはこのほど、日本政府が進めるGX政策に関するレポートを公表した。レポートでは、GX政策の大部分は気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が定めた「1.5℃目標」と整合性が取れていないと指摘した。GX政策に大きく関与したのは、経団連など9つの業界団体と重工業8社だったことが分かった。(オルタナS編集長=池田 真隆)

インフルエンス・マップは、企業の気候変動政策への働きかけを格付けする非営利の環境シンクタンクだ。英・ロンドンに拠点を構える。同団体は11月13日、都内で会見を開き、日本政府が進めるGX政策の問題点を指摘した。

IPCCでは、気温上昇1.5℃以下に抑えるための科学的根拠に基づく政策(SBP、サイエンス・ベースド・ポリシー)を示した。同団体はSBPをもとに、GX政策と1.5℃目標が整合しているか調べたが、その多くが整合していなかった。

排出量取引の参加「自主性任せ」が「1.5℃目標」と乖離

SBPと大きく乖離したのは3つある。一つは、「カーボンプライシング」だ。カーボンプライシングは企業に脱炭素化へのシグナルを示す政策だ。大別すると排出量取引と炭素税がある。

日本は経産省主導で「GXリーグ」を立ち上げ、来年秋から二酸化炭素の排出量を売買できるようにする。だが、すでに排出量取引を導入している欧州などと異なり、日本政府は企業に参加を義務付けていない。総量規制も行わない。

加えて、炭素税の導入も見送った。現行の地球温暖化対策税(289円)はSBPよりも低い価格水準だった。

GX政策の大部分は1.5℃目標とズレていた

30年の石炭火力の割合は「1.5℃目標」の2倍に

石炭火力の廃止時期を定めず、水素・アンモニア混焼で推進する政策についてもSBPと大きく乖離していた。

経産省は、日本の産業全体のGX化に、10年で150兆円の投資が必要だと試算した。そこで、今年度から10年間で、約20兆円規模の国債「クライメート・トランジション・ボンド」を発行する。この国債を呼び水に民間から投資を引き出す狙いだ。

クライメート・トランジション・ボンドは建設国債や復興債のような「統合債」ではなく、独立した国債として売り出す。資金使途を脱炭素に限定し、カーボンプライシングから資金を償還財源に充て、償還までの期間(2050年まで)も通常の国債と比べて短くした。

国債として調達した資金で民間企業が投資に踏み出しづらい、「革新的技術」に投資していく。具体的には、「水素・アンモニア混焼の供給網の整備(約7兆円)」「CCSやCCUS(約4兆円)」「次世代革新炉(約1兆円)」などだ。

エネルギー基本計画では、2030年の電源構成に占める石炭火力の割合を約19%としているが、SBPの約2倍だ。燃焼時にはCO2は排出しないが、製造時に排出するアンモニアを混焼することで石炭火力を動かすことについては、石炭火力の「延命策」と指摘した。

GX政策で位置付ける「電動車」に関しても、SBPと異なる。GX政策では電動車にハイブリッド車を含むが、IPCCはハイブリッド車は「一時的な解決策」と位置付ける。ハイブリッド車の代わりに、低排出電力で動く電気自動車が優位な役割を果たさなければならないと強調する。この点からもGX政策は1.5℃目標とズレていた。

「1.5℃目標と整合しない企業・団体がGX政策に大きく影響を与えた」

インフルエンスマップは、GX政策に関与した企業や団体についても調べた。その結果、GX政策に特化した約900個のエビデンスのうち81%は、経団連など9つの業界団体と重工業8社の影響だったことが明らかになった。

電力、鉄鋼、エネルギー、自動車セクターを代表する業界団体や企業だった。その他の業界(金融、小売、建設、消費財、ヘルスケアなど)は、日本経済と雇用の70%以上を占めているが、GX政策の細部については、積極的な働きかけを行ってこなかったと分析した。

科学的根拠に基づく政策と整合しない立場を取る企業からの積極的な政策関与によって、現在のGX政策ができあがった可能性があると指摘した。

インフルエンス・マップのアナリスト 武井七海氏は、「本レポートの分析からは、気候変動政策であるGX政策に重工業分野の一部の業界団体、企業の声が多く寄せられたことが明らかになりました。しかし、全ての業界、企業が気候変動の原因になりながらその影響も受けています。エネルギー政策をはじめとする気候変動政策は、もはや重工業分野だけの問題ではなくなりました。より野心的な気候変動政策を求めるアドボカシー活動をより積極的に行うことが、政策を前進させ、1.5℃目標を達成するためには重要です」と話した。

M.Ikeda

池田 真隆 (オルタナS編集長)

株式会社オルタナ取締役、オルタナS編集長 1989年東京都生まれ。立教大学文学部卒業。 環境省「中小企業の環境経営のあり方検討会」委員、農林水産省「2027年国際園芸博覧会政府出展検討会」委員、「エコアクション21」オブザイヤー審査員、社会福祉HERO’S TOKYO 最終審査員、Jリーグ「シャレン!」審査委員など。

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キーワード: #脱炭素

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