記事のポイント
- ユニリーバ・ジャパンのジョイ・ホー社長はレズビアンであると公表している
- 「自分らしく」を体現するリーダーであるためにカミングアウトを決意した
- カミングアウトに至った経緯やその真意を聞いた
LGBTQの認知が広がっているものの、当事者を取り巻く環境は厳しい。レズビアンであることを公表しているユニリーバ・ジャパン・カスタマーマーケティングのジョイ・ホー社長は、「『自分らしく』を体現するリーダーであるためにカミングアウトを決意した」と明かす。(オルタナ副編集長=吉田広子、北村佳代子)
ジョイ・ホー:ユニリーバ・ジャパン・カスタマーマーケティング社長。台湾生まれ。1997年ユニリーバ台湾入社。2001年アジアリージョナルセールスマネジャー、02年ユニリーバ中国でブランドマネジャー、その後、ユニリーバ台湾でリプトンRTDビジネスマネジャー、セールスダイレクターを歴任。09年に退社し、17年に再入社。同年からユニリーバ台湾・香港マネージングダイレクター。2022年7月から現職。
■ カミングアウトで同僚から感謝の声
――カミングアウトは非常に勇気がいることだったと思います。一番の動機は何だったのでしょうか。
オーセンティック・リーダー(自分らしさを大切にするリーダー)であるためです。多くのLGBTQ当事者にとって、自分らしくあることは非常に難しいことです。日々たくさんの「拒絶」に直面し、若いLGBTQ当事者は、自分を隠し続けなければ居場所やキャリアを失ってしまうかもしれない恐怖を感じています。成熟した大人でさえも、困難を抱えています。
声なき人々に変わって、だれかが声を上げなければなりません。私は若者のロールモデルになる責任を感じています。LGBTQ当事者も自分を隠すことなくリーダーになれることを示したい。そして、企業やブランドの力で、だれもが自分らしく、誇らしく、幸せに生きることが当たり前になる職場や社会をつくっていきたいのです。
――どのようにカミングアウトしたのですか。
カミングアウトしたのは10年ほど前です。それまでもオープンマインドなリーダーであろうと努めていましたが、プライベートな話題は避けていました。
例えば、「週末に何をしていたのか」といったことでさえ、気軽に話すことができませんでした。本当は「彼女」といても「友人と出かけた」と言わなければならないからです。常に多くの制約やプレッシャーを感じ、精神衛生上良くありませんでした。周囲の人たちも思慮深く、触れないようにしていたと思います。
しかし、ある時、当時のエグゼクティブコーチに「あなたは同性愛者なのか」と聞かれました。「そうだ」と打ち明けると、彼女が言ったのです。「ジョイ、あなたは何も間違っていない。なぜ隠すのか。リーダーは何も隠さないものよ」と。結婚したばかりだった妻も励ましてくれました。
そこで、私は周囲の人から徐々にカミングアウトを始め、職場でもありのままの自分を見せていくことを決めました。2015年に中国に赴任した際は、数百人の従業員を前に、写真を投影しながら、自分はだれなのか、両親や姉、そして妻について説明しました。2022年7月にユニリーバ・ジャパンの社長に就任した時も同じようにしました。緊張はしませんでした。一度決めたことを止める理由はないですから。
カミングアウトした後、多くの同僚に「話してくれてありがとう」と声をかけられました。当事者だけではなく、家族や友人に当事者がいる人も、私がビジネスリーダーとしてカミングアウトしたことがどれほど意味のあることか、口々に話してくれました。日本に来てまだ1年余りですが、良い変化が広がっているのを感じています。
■虹色のシンボルに勇気付けられる
――日本ではLGBTQ当事者層は9.7%いるとされていますが、特に職場でのカミングアウトは難しい現状があります(出典:電通「LGBTQ+調査2023」)。社長の発言やユニリーバの取り組みを通じて、日本社会にどのような影響を与えたいですか。
私が一度ユニリーバを離れた後、再入社したのは、ユニリーバには「Be yourself」(あなたらしく)を大切にする企業文化があったからです。
ユニリーバでは、LGBTQ当事者に限らず、だれもが「ありのまま」でいることを大切にしています。それは、人は自分らしくあるときにこそ、力を発揮し、輝けることを知っているからです。自分を隠したり、だれかのふりをしたりする必要はありません。
私が生まれた台湾は、2019年にアジアで初めて同性婚が合法化しましたが、それまでたくさんの闘いがありました。いまでも差別や偏見は根強くあります。カミングアウトしているLGBTQ当事者が身近にいないために分からないということもあるでしょう。
だからこそ、当事者やアライ(支援者)が声を上げていくことが重要なのです。
ユニリーバ・ジャパンは、社内であらゆる差別を禁止し、公正な採用や人事評価を徹底しています。同性パートナーにも配偶者と同様の福利厚生制度を提供したり、本人が望む性別を尊重したり、24時間365日匿名でも相談できる窓口を設置したりと、インクルーシブ(包摂的)な人事制度・職場環境を整えてきました。
「東京レインボープライド」や婚姻の平等に賛同する企業を可視化するためのキャンペーン「ビジネス・フォー・マリッジ・イクオリティ」などの取り組みに賛同し、社外へも働きかけを続けています。
個人でも何かできることがないかと思ってくださる方がいらしたら、持ち物に虹色のステッカーを貼ったり、デスクに虹の旗を飾ったりするといった行動も、LGBTQ当事者を勇気付けます。
当事者には「他の人と違う自分は、受け入れられなくて当たり前だ」という感覚があります。ですから、アライ(支援者)のシンボルである虹色のグッズを見ると、心が温まり、恐怖を感じなくなるのです。
(この続きは)
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