記事のポイント
- ロンドン自然史博物館は、生物多様性保全指標(BII)を金融市場に提供する
- BIIをブルームバーグの持つグローバル5万社の企業データと組み合わせる
- 企業が生態系に与える影響を把握する生物多様性ツールを構築する
英ロンドン自然史博物館とブルームバーグは11月29日、金融市場向けに生物多様性に関するデータを提供すると発表した。ロンドン自然史博物館では、生物多様性保全指標(BII)を運営する。この指標を、ブルームバーグが保有する約5万社のグローバル企業情報と組み合わせ、企業が生態系に与える影響などを可視化する。金融機関によるネイチャーポジティブな投資判断を支援するねらいだ。(オルタナ編集部・北村佳代子)

英国の観光スポットとしても人気の高いロンドン自然史博物館は、世界最先端の科学機関だ。同博物館の350人の科学者らは、深刻な地球環境への解決策を見出す最大規模の研究グループでもある。
■博物館の保有する5万8000超の陸生生物データを活用
同博物館の生物多様性保全指標(BII)は、科学的に厳密な生物多様性データを提供し、「ネット・ポジティブな生物多様性ソリューション」を支援する。
世界の5万8000超の植物、菌類、動物に関する複雑な生物多様性データを活用して、地域の陸生生物の多様性が土地利用の変化や集約化といった人間からの圧力にどのように反応しているかを示す。
他の生物多様性指標と異なるのは、生物多様性の変化の将来予測を示す点だ。これによりユーザーは、今後の管理のあり方を決定・判断するのに役立てることができる。
自然の状態を100%(自然に存在する生物多様性がそのまま残っている状態)から0%(その地域に残る生物種のうち、自然にそこに生息していたものが1つもない状態)までの尺度で分類し、人間による干渉を最小限に抑えた原始的な地域と比較した特定の陸上地域の生物多様性の構成を表す。
■ネイチャーポジティブな投資判断の支援ツールに
■自然の喪失はグローバルで潜在的に重大なリスク
ネイチャーポジティブな投資判断の支援ツールに
ロンドン自然史博物館のダグ・ガー館長は、「ブルームバーグとの画期的な共同研究は、世界の生物多様性を保護する我々の努力に新時代の到来を告げるものだ」と力をこめる。
「地球が直面する課題への対処を目的に私たちが進めてきた研究が、初めて、投資の意思決定のサポートにも利用できるようになる。このイノベーションが、地球の緊急事態に取り組む金融戦略を推進する分岐点として認識されることを期待する」
ブルームバーグは、グローバルの約5万社の企業データを保有する。これらに紐づいた100万件超の有形資産に関するデータを、BIIのデータと組み合わせ、生物多様性保全ツールを構築する。
これにより、企業が手つかずの生態系にどれだけアクセスしているのか、企業の事業所付近の生態系がどれだけ悪化しているのかといった情報が、規模感とその経時的な推移とともに可視化される。
ブルームバーグは、生態系が損なわれていない地域や、生態系の完全性が失われつつある地域で事業展開する企業をスクリーニングするツールを提供することで、投資家の「ネイチャーポジティブ」な投資判断を支援する。
■自然の喪失はグローバルで潜在的に重大なリスク
世界の総GDPの半分以上は、自然やその生態系に中程度または高度に依存している。自然が失われることは、グローバル市場にとって潜在的に重大なリスクをはらむ。
ブルームバーグのサステナブルファイナンスソリューションでグローバルヘッドを務めるパトリシア・トレス氏は、投資家が利用可能な生物多様性関連のデータが乏しいことに言及したうえで、「生態系の保全・保護を追求する投資家に、貴重な情報を提供できるようになることを嬉しく思う」とコメントした。