国連「世界干ばつ概観」では前例のない緊急事態に

記事のポイント


  1. 国連は「世界干ばつスナップショット(概観)」報告書を公開した
  2. 中南米やアフリカ、欧州、米国、中国などの干ばつデータをまとめた
  3. 世界の干ばつ関連データから、地球が緊急事態にあると警鐘を鳴らす

国連砂漠化対処条約(UNCCD)は、国際干ばつ回復同盟(IDRA)と共同で「世界干ばつスナップショット(概観)」報告書を公開した。過去2年間の調査に基づき、中南米やアフリカ、欧州、米国、中国など、世界の干ばつ関連データをまとめた。報告書は「惑星規模での前例のない緊急事態」にあると警鐘を鳴らす。(オルタナ編集部・北村佳代子)

国連「世界干ばつ概観」は惑星規模での前例のない緊急事態と警鐘を鳴らす

UNCCDは、適切な土地管理に関する国際協定だ。気候変動に関する国際連合枠組条約(UNFCCC)と生物の多様性に関する条約(UNCBD)とともに、1992年にリオデジャネイロで開催された地球サミットで採択された。

UNCCDのイブラヒム・ティアウ事務局長は、「メディアの注目を集める他の災害とは異なり、干ばつは静かに発生し、多くの場合、気づかれることなく、世論や政治的対応を即座に喚起することができない。この静かな荒廃は、ネグレクトの連鎖を継続させ、被害を受ける人々が孤立したまま負担を負うことになる」と指摘する。

「干ばつ現象の頻度と深刻さが増す中、貯水池の水位が低下し作物の収量が減り、生物多様性が失われ続け飢饉が蔓延しており、構造的な変革が求められている」と警鐘を鳴らす。

■干ばつはすでに低・中所得国の人口85%に影響

「干ばつほど、多くの人命の損失をもたらし、経済的損失や社会の多くの分野に影響を及ぼす災害はない」とUNCCDのティアウ事務局長は警鐘を鳴らす。

干ばつの影響を受ける低・中所得国の人は85%に上る(世界銀行、2023年)ほか、洪水、干ばつ、暴風雨による死亡リスクについて、脆弱性が高い地域は非常に低い地域の15倍(2010年~2020年)だという(気候変動に関する政府間パネル(IPCC)、2023年)。

エルサルバドル、グアテマラ、ホンジュラス、ニカラグアに帯状にまたがる中米乾燥回廊では、5年にわたる干ばつや熱波、予測不能な降雨によって、120万人が食糧援助を必要とする。

過去40年間で最も深刻な干ばつが発生したアフリカでは、農業生産性の低下、食糧不安、食糧価格の高騰などから、エチオピア、ケニア、ソマリアを中心とする「アフリカの角」全域で2300万人が深刻な食料不足に苦しんでいる(2022年12月)。

南アフリカでは干ばつによって放牧地の33%が失われた。アフリカでは過去50年間の干ばつによる経済損失が700億ドルに上った(世界気象機関(WMO)、2022年)。

■欧州では、日本の約1.7倍の面積が干ばつの影響を受ける

報告書はまた、2022年の記録的な猛暑と暖冬により欧州の約64万平方キロメートルが干ばつの影響を受けたとする欧州環境機関のデータ(2023年)を紹介する。この面積は、イタリアとポーランドの面積の合計値に匹敵し、日本の国土の約1.7倍だ。

欧州が2022年と同程度の干ばつを経験したのは、500年前にさかのぼる。干ばつで2022年はライン川の水位が低下し、一部船舶の貨物能力が制約を受け、75%の船舶の発着に深刻な遅れが生じた。

農地もまた、EU全体の約5%に相当する7万3千平方キロメートルが干ばつの影響を受けた(2000年から2022年の平均)。地中海沿岸で、干ばつの被害を受けた穀物は全体の70%に及ぶ(2016年から2018年)という。

■米国本土の5%が「深刻」~「極度」の干ばつ状態

米国海洋大気局によると、米国本土の5%が、2023年5月現在、パーマー干ばつ指数が「深刻」もしくは「極度」の干ばつ状態にあると紹介した。

パーマー干ばつ指数は、降水量と気温のデータを使用し、水収支モデルから水の供給と需要を調査する。通常の状態を「0」と置き、マイナス2を「中程度」、マイナス3を「深刻」、マイナス4を「極度」の干ばつと表示する。

2022年後半には、米中部を流れるミシシッピ川の水位が低下し、2000隻のはしけが滞留し、サプライチェーンの混乱によって200億ドルの経済的損害が発生した。

カリフォルニア州のセントラルバレー流域では、過去30年間にわたる長期的な地下水位の低下と水質悪化が2~5倍に加速している。

■中国は今世紀中に人口の15-20%が相応の影響を受ける
■耐性強化には土地の回復と持続可能な管理が不可欠

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北村(宮子)佳代子(オルタナ副編集長)

北村(宮子)佳代子(オルタナ副編集長)

オルタナ副編集長。アヴニール・ワークス株式会社代表取締役。伊藤忠商事、IIJ、ソニー、ソニーフィナンシャルで、主としてIR・広報を経験後、独立。上場企業のアニュアルレポートや統合報告書などで数多くのトップインタビューを執筆。英国CMI認定サステナビリティ(CSR)プラクティショナー。2023年からオルタナ編集部。

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キーワード: #地球温暖化

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