「厳格EU」対「緩い日本」、ESG路線対立 鮮明に

記事のポイント


  1. ESG政策で、欧州と日本の間の「溝」が鮮明になってきた
  2. EUは法規制を続々と打ち出し、日本は「緩い枠組み」にとどめる
  3. 日本企業はどちらに顔を向ければ良いのか

ESG(環境・社会・ガバナンス)政策で、欧州と日本の間の「溝」が鮮明になってきた。EUはESGで域内外のリーダーシップを執ろうと、法規制を続々と打ち出す。一方、日本政府は「GX」の名のもとに、企業の自主性に任せる緩い枠組みにとどめる。日本企業はどちらに顔を向ければ良いのか。(オルタナ編集長・森 摂、副編集長・池田真隆、吉田広子、北村佳代子、編集部・下村つぐみ)

「カーボンフットプリント(CFP)について聞かせて下さい」ーー。国内の主要自動車部品メーカーに2023年9月ごろ、大手自動車(完成車)メーカーからこんな質問状が届いた。

各部品メーカーが排出する温室効果ガス(GHG)排出測定において、どんな方針なのかを問うものだ。選択肢は4つあった。

1: GHG排出量の詳細を明らかにし、完成車メーカーからの監査を受ける。
2: GHG排出量の詳細を明らかにし、第三者機関からの監査を受ける。
3: GHG排出量の詳細の一部を機密事項としつつ、完成車メーカーからの監査を受ける。
4: GHG排出量の詳細の一部を機密事項としつつ、第三者機関からの監査を受ける。

1と3は完成車メーカーが監査し、その費用も持つ。しかし、2と4を選んだ場合、第三者機関からの監査は、部品メーカー自身に負担を求めた。監査を受けることが「企業の社会的責任」そのものという理由からだ。

完成車メーカーがそのサプライヤー(部品メーカー)にGHG排出量に関する第三者保証を求める背景には、EUによる「CSRD」(企業サステナビリティ報告指令、2023年1月発効)がある。

EUは、2050年までに温室効果ガス排出量の実質ゼロを目指す政策「欧州グリーンディール」を掲げた。CSRDはこの一環で発効した。企業のサステナ(非財務)情報開示の強化が狙いだ。

CSRDでは、企業が開示した情報に第三者保証を義務付けた。対象は域内だけでなく、域外にも及ぶ。CSRDでは、年間売上高4千万ユーロ(約54億円)以上、社員数250人以上を「大企業」と位置付け、該当する日本企業の子会社も2025年から適用を受ける。

この動きに合わせ、環境省もGHG排出量の第三者保証を企業に推奨する。2024年3月末までに、サプライチェーン全体のGHG排出量の算定に関する新たな指針をまとめ、算定した数値の第三者保証も奨める。

しかし、部品メーカーからは困惑の声が相次ぐ。GHG排出量の詳細は企業秘密だ。監査を完成車メーカーに任せれば、費用負担はない。だが、「なぜ企業秘密を開示しなければいけないのか」(部品メーカー担当者)。

詳細を開示しなければ、監査費用は自社が払うことになる。第三者保証の基準が明確になっていない中で、見積もりを取ることさえ難しい。ある見積もりでは、年間で数千万円かかることが分かった。完成車メーカーからの支援もなく、「一方的な押し付け」(同社)と受け止めた。

■環境も人権も「DD」求める
■EU国境炭素税主要国に広がる
GXに批判続々国債名称変更も
■規制なき日本、ウォッシュ散見
■重工業よりの政策が明らかに
■政府のNX戦略本質からズレ

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オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

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キーワード: #サステナビリティ

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