「子どもだまし」のGXで大丈夫か

雑誌オルタナ75号:「alternative eyes」第48回

アラブ首長国連邦(UAE)のドバイで11月30日、COP28(気候変動枠組条約第28回締約国会議)が開幕しました。118カ国の首脳が「2030年までに再生可能エネルギーの発電容量を最低でも110億キロワットと、これまでの3倍にする」との意欲的な施策を討議し、気候変動対策の軸を「再生可能エネルギー」に置いて、脱炭素を目指す国際的な潮流を再確認しました。(オルタナ編集長・森 摂)

COP28に出席した日本の岸田首相も2023年国会で成立させたGX(グリーントランスフォーメーション)関連5法を軸に、カーボンニュートラルを目指します。ただし、この「GX」、ボタンの掛け違い感が際立ちます。

このままでは、グローバルの潮流と大きくかけ離れていくことを懸念します。まず、日本のGXは政府が「経済成長に資する」ことを意識し過ぎ、既存の業界に配慮し過ぎた結果、イノベーションを生み出しにくい土壌になりつつあることです。

特に化石燃料や原発などを守ろうとするあまり、再生可能エネルギーへの資本投下が不十分だった側面があります。

GXリーグにしても、排出量取引の基本である「キャップ&トレード」の仕組みを厳格には取り入れないままの見切り発車で、これでは参加する企業はとまどいを隠せないでしょう。

さらには、「アンモニア」です。アンモニアは、JERAなど一部の発電会社が「燃やしてもCO₂を出さない」と喧けん伝でんしています。

ところが、オルタナが21年3月発行号(64号)の第一特集「グリーンな脱炭素 グレーな脱炭素」で詳報した通り、アンモニアは燃焼時にCO₂の排出こそしないものの、生成時に大量のCO₂を排出するのです。

天然ガス(メタン)からアンモニアを製造する手法として有名な「ハーバーボッシュ法」では、アンモニア1トンを作るために、実に2.35トンものCO₂が発生するそうです。製品より排出CO₂の方が多いのです。

[ハーバーボッシュ法の化学式]
CH₄(メタン)+2H₂O(水)→ CO₂(二酸化炭素)+4H₂(水素)
N₂(窒素)+3H₂(水素)→2NH₃(アンモニア)

アンモニアについては、中学1年の理科でも習います。なのに発電事業者は(アンモニアは製造時に大量のCO₂を出すのに)「燃やしても二酸化炭素を出しません」と主張します。

子どもたちには分からないと思っているのかも知れませんが、この嘘はとっくにバレています。

SDGsのSD(持続可能な開発)の定義は、「将来世代の必要性を満たすことを犠牲にせず、現在世代の必要性を満たすこと」です。

ところがアンモニアの混焼で石炭火力発電を温存することは、気候変動の解決策にはならず、結果的に将来世代を裏切ることになりかねません。

今号の第一特集の通り、日本の「GX」は、諸外国の環境NGOらから厳しい批判にさらされています。岸田政権になって原発推進の方針を強め、国内外の専門家からは「GXのGは原発のG」と揶揄されてい
ます。

日本のGXは、このままでは「ガラパゴス化」して、諸外国から批判を受けるだけではなく、ビジネスとしても成り立たなくなる可能性があります。GHGを半減させる30年まであと6年しかありません。今からでも軌道修正は遅くないのです。

森 摂(オルタナ編集長)

森 摂(オルタナ編集長)

株式会社オルタナ代表取締役社長・「オルタナ」編集長 武蔵野大学大学院環境学研究科客員教授。大阪星光学院高校、東京外国語大学スペイン語学科を卒業後、日本経済新聞社入社。編集局流通経済部などを経て 1998年-2001年ロサンゼルス支局長。2006年9月、株式会社オルタナを設立、現在に至る。主な著書に『未来に選ばれる会社-CSRから始まるソーシャル・ブランディング』(学芸出版社、2015年)、『ブランドのDNA』(日経ビジネス、片平秀貴・元東京大学教授と共著、2005年)など。環境省「グッドライフアワード」実行委員、環境省「地域循環共生圏づくりプラットフォーム有識者会議」委員、一般社団法人CSR経営者フォーラム代表理事、日本自動車会議「クルマ・社会・パートナーシップ大賞」選考委員ほか。

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キーワード: #GX#脱炭素

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