日鉄、USスチール買収で世界に露わになる炭素依存体質

記事のポイント


  1. 日本製鉄は2023年末、約2兆円でUSスチールを買収すると発表した
  2. 同社最大のM&Aで、世界第3位の鉄鋼企業になる
  3. だが、この買収で炭素依存体質が世界に露わになるリスクもはらむ

2023年末に発表された日本製鉄によるUSスチール買収は、日本製鉄、鉄鋼業界、そして日米双方の脱炭素化計画にとって重要な転換点となる。日本製鉄にとっては巨額の支出であり、日本のトップ鉄鋼メーカーから世界的プレイヤーへの戦略的転換を示す。だが、この買収で、炭素依存体質が世界に露わになるリスクもはらむ。(スティールウォッチ アジアコミュニケーション・リサーチ担当=松本 志織)

日本製鉄は粗鋼生産量で世界第4位の鉄鋼企業で、10基の高炉を稼働している。他方、同社は主に国内の鉄鋼メーカーであったため、気候変動対策の遅れが世界からとりわけ注目されることはなかった。

しかし今回の買収によって同社は第3位の鉄鋼企業になると見られており、そのポートフォリオには合計で18の高炉が計上され、気候変動への対策の遅れがますます露呈し、問われることになるだろう。

日本製鉄は、カーボンプライシングへの反対、また再生可能エネルギーの拡大に否定的な立場をとっているため、日本、インド、韓国企業の中で気候行動のワースト・パフォーマーと認定されている。

同社はカーボンニュートラルビジョンを掲げ脱炭素化を高らかに宣伝しているが、その行動の実態は、事業の脱炭素化のための現実的な計画というよりも、単なる宣伝用であることを示している。

日本製鉄は「サステナビリティレポート2023」において2013年比の排出量削減について報告しているものの、これは需要減少による炉の閉鎖が理由である。 排出原単位(鉄鋼1トン当たりのCO2排出量)はほぼ変わっていない

さらに同社は2040年までの排出削減行動をほとんど検討しておらず、その結果、地球温暖化の2.4度上昇という悲惨な数値に沿った計画となっている。さらに世界がネット・ゼロになるとされる2050年になっても、同社はSuper COURSE50で高炉を稼働させる計画だ。この技術でも、高炉の排出量をせいぜい50%削減する程度にしかならない。

日本製鉄は現在、石炭を中心に据えるという大きなミスを犯しているようだ。これは昨年11月に発表されたカナダの製鉄用原料炭事業への投資で明らかになった。

日本最大の高炉メーカーであった同社は、世界最大の高炉メーカーの一つになりつつある。これは、排出量の大幅削減が避けられない世界情勢の中で、評判と座礁資産の大きなリスクとなる。

今回の買収は気候対策の遅れを米国に輸出するリスクがある一方、日本製鉄が汚染に責任を持ち、プロセスを近代化・クリーン化して真に環境に配慮した鉄鋼業界のリーダーになる機会にもなり得る。

USスチールは責任ある鉄の原料調達と生産に関する世界的枠組「レスポンシブル・スチール」のメンバーであることから、今後は会員になり、スクラップベースの生産技術を学び、認証された鉄鋼へと急速に移行することができるだろう。

日本製鉄は、事業の将来性を確保しつつ、気候変動対策の阻害要因ではなく推進要因となるために、日本、米国、そして世界のあらゆる高炉において、石炭を使用しない生産への移行計画を早急に策定する必要がある。

グローバルな鉄鋼企業であることは、グローバルな責任を伴う。今こそ、石炭依存の気候変動後進国から、真の国際的ロールモデルへと軸足を移す時なのだ。

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オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

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キーワード: #脱炭素

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