記事のポイント
- サスレポなど報告書のトップメッセージの重要性は増している
- トップメッセージは、社長が自身の言葉で書くことが重要だ
- 「社長が自身の言葉で書く」とはどういう意味か、専門家に聞いた
サステナビリティレポートや統合報告書のトップメッセージでは、社長が自身の言葉で書くことが重要だ。では、社長が自身の言葉で書くとはどういう意味か。ESG情報開示の専門家に聞いた。(オルタナ副編集長=池田 真隆)
■社長の意思(ウィル)が見えるか
増田典生・ESG情報開示研究会共同代表理事、日立製作所サステナビリティ推進本部主管
統合報告書のトップメッセージでは、社長自身の言葉で書くことが重要です。では、社長自身の言葉で書くとはどのような意味でしょうか。
私は、社長の意思(ウィル)が垣間見えるかどうかだと思います。単に国際的なESGトレンドや市場動向を踏まえて語るのではなく、大局的な歴史観を持って、「だから自分はこう考えた」と言い切れるかどうかです。
自社の価値、そして、価値創造へのストーリーについて、これまでの社長自身の経験も踏まえながら語ることで、自然と言葉に意思が宿るはずです。
トップメッセージは、自社が考えた経営戦略への覚悟と意思を示すものです。だから、目標とのギャップを見定め、現実的な落としどころを探って書くものではありません。向かうべき方向性を示すものなので、大胆な内容でいいのです。
トップメッセージを読んで、意思を感じる経営者に共通することは、徹底した内省です。自己・自社が何者か内省します。パーパス(存在意義)を深堀するイメージに近いです。どのような歴史的な変遷を踏まえて今、存在しているのか、そして、これからどういう世界をつくっていきたいのか、自らに問いかけます。
ESG領域での「透明性」が問われる中、トップメッセージの重要性は増しています。投資家は統合報告書を読む際、その会社の価値創造について、仮説を持って読むことが多いと聞きます。
社長の言葉とその仮説が合えば、共感しますし、もし合わなくても、そのズレは何か探ろうとします。インベスターダイアログでのいいネタになるのです。
こうした意味からも、トップメッセージで社長が自身の意思を示すことが有利に働きます。
増田 典生:
1985年日立ソリューションズ入社。2015年4月日立製作所へ転籍。2017年度から2019年度までサステナビリティ推進本部企画部長として日立グループのサステナビリティ戦略構築・推進に従事。2020年4月からサステナビリティ推進本部主管(現任) 。2020年6月一般社団法人ESG情報開示研究会設立と同時に共同代表理事に就任(現任)。2022年4月から京都大学経営管理大学院特命教授(現任)。
■良いことばかりではなく、厳しい示唆も
白藤大仁・リンクコーポレイトコミュニケーションズ社長
今、統合報告書などにおいても、誰かに書いてもらった当たり障りのない一般論を、あたかも社長が語ったかのように表現しているものも散見されます。しかし、投資家の皆様が求めているのは経営者の「体温」が感じられるメッセージです。
そうしたメッセージの多くは、良い事ばかりではなく、株価をはじめ自社に対する外部評価を含めた厳しい俯瞰的な示唆が書き起こされており、自らが歩んできた経験とこれからの事業の成長の姿がストーリーとして繋がっていることが特徴です。
社長メッセージが経営のコアメッセージであることは疑いようのない事実。ただし、いきなり「統合報告書に載せるからメッセージを書いて欲しい」と言われて、すぐに言葉が湧き上がることはなかなかありません。
会社を取り巻くすべてのステークホルダーを意識したメッセージを編み上げることが重要です。
トップを支える周辺部門の皆様におかれては、日頃から投資家をはじめとしたステークホルダーとの対話を常に経営へ適切に伝え続けることが非常に重要なミッションだと言えるでしょう。
白藤 大仁:
2006年、株式会社リンクアンドモチベーション入社。2019年、株式会社リンクコーポレイトコミュニケーションズの代表取締役社長に就任。「オンリーワンの、IRを。」をメインメッセージとし、企業のオンリーワン性を導き出すことで、IR活動や経営活動を支援する事業を展開。プライム企業を中心に、統合報告書の制作や決算説明会の配信支援など、IR領域で幅広いソリューションを提供している。2023年より、特定非営利活動法人 日本IRプランナーズ協会 理事。 投資家との対談やメディアでの解説実績多数。