「思い込みが問題の認識を遅らせた」
同じように「ポイント・オブ・ノー・リターン」の重要性を感じさせたのが、カネボウ化粧品が今年7月4日に自主回収を発表した美白化粧品だ。
問題となった有効成分はシラカバの樹脂由来の「ロドデノール」で、カネボウが独自に開発し、2008年に厚生労働省から承認を得ていた。
自主回収の対象は、主力の化粧品ブランド「ブランシールスペリア」「トワニー」「インプレス」など54製品。ロドデノールを配合した同社製品の累計出荷個数は約436万個。愛用者は約25万人に上る。
今回の事態では、2011年から肌の異常を訴える相談が利用者から寄せられていたにもかかわらず、2013年5月に皮膚科医の通報を受けるまで自社製品によるトラブルと捉えていなかった。
カネボウ化粧品の夏坂真澄社長は7月4日の記者会見で、「病気(持病)であるという(窓口担当者の)思い込みが問題の認識を遅らせた」と悔やんだが、誰の目にも「後の祭り」であることは明らかだ。
「ポイント・オブ・ノー・リターン」に至るまでには、常に「後戻りできる」時点がある。水俣病も、ロドデノール事件も、因果関係を指摘する専門家の声があったのにも関わらず、これを無視したため、事態が深刻化するに至った。
ロドデノール事件では、2012年10月、山口県在住の皮膚科医が、肌に異変が起きた患者がいることをカネボウに報告していたことも明らかになっている。商品回収の9カ月前のことだ。
結局、企業が外部専門家や消費者の声を経営判断に取り入れるかどうかで、その後の帰趨は大きく分かれる。専門家の意見は真摯に受け止めるとしても、名も無い消費者の声はかき消されがちだ。しかし、そこに「真実の瞬間」がある。