米「ESG」対「反ESG」論争と大統領選挙の行方(下)

記事のポイン


  1. 2024年米国大統領選は、3月時点で「トランプ再選」の可能性が高まってきた
  2. 米国ではESGは攻撃にさらされるが、実質的な脱炭素が進む可能性もある
  3. 気候変動対策に3910億ドルを投じる「インフレ抑制法」への影響も注目される

米ウォール・ストリート・ジャーナルが2024年3月に実施した世論調査によると、米国大統領選挙は、投票先が振り子のように揺れる激戦州「スイングステート」でトランプ候補が優勢との結果だった。もしトランプ氏が本当に当選すれば、「ESG」への影響はどうなるのだろうか。(オルタナ論説委員/東京大学 大学院新領域創成科学研究科 特任研究員・御代田有希)

米大統領選挙は2024年11月5日に行われる

「急進左翼のESG投資から米国人を守る」

トランプ候補の公約の中で、ESGに特に関連するものは以下の5つがあげられる。

(1) 急進左翼のESG投資から米国人を守る

(2) 左翼ジェンダーの狂気から子どもたちを守る

(3) 人種的、性的、政治的内容に関する米国の教育を救い、親の権力を取り戻す

(4) 米国の光熱費を世界一安くする

(5) パリ協定を脱退、アメリカをエネルギー供給で優位にさせる

トランプ氏が公約通りに政策を推進した場合、「ESG投資」は直接的な攻撃にさらされるだろう。

特にESGの「S」(社会)課題については、保守的な政策が進むと予想される。最近、象徴的だったのは、連邦裁判所において、22年に妊娠中絶手術の権利が覆されたことや、23年に大学入試におけるマイノリティの優遇措置である「アファーマティブ・アクション」に対し45年ぶりに違憲判決が出されたことがある。

これらはトランプ大統領が在任中に任命した保守系の最高裁判官の影響があるとされ、トランプ新政権誕生の場合、こうした政策が加速される可能性がある。

「E」(環境)についても懸念の声が高まる。小尾(2023)(※)によれば、米国の連邦レベルでの気候変動政策は従前から安定性が欠如しており、民主党が積極的、共和党が消極的であった。

だがそれ以上に、トランプ氏は個人として気候変動現象に懐疑的であるとされる。「気候変動対策が大幅に遅れたとしても、石油を採掘し、いまの米国が豊かになればそれで良い」という考えに基づく政策が進む可能性がある。

※小尾美千代(2023)「分断化するアメリカにおける脱炭素化とグローバル気候ガバナンス」『グローバルガバナンス』33-48頁

(この続きは)
インフレ抑制法は史上最大の気候変動対策
米国の「バッテリーベルト」は後戻りできない
バイデン政権が再選した場合にはどうなるか

御代田 有希(オルタナ論説委員/東京大学大学院 新領域創成科学研究科サステイナブル社会デザインセンター特任研究員)

御代田 有希(オルタナ論説委員/東京大学大学院 新領域創成科学研究科サステイナブル社会デザインセンター特任研究員)

オルタナ論説委員。博士(法学)。東京大学大学院新領域創成科学研究科サステイナブル社会デザインセンター特任研究員。研究関心は、グローバル・ガバナンス、持続可能な開発目標(SDGs)、ESG投資。慶應義塾大学法学部卒業後に株式会社三菱東京UFJ銀行(現MUFG銀行)にて勤務し、退職後一橋大学国際・公共政策大学院へ進学。その後同大学院法学研究科の博士課程在籍中に、米国農務省およびESG投資を始動させた国際団体である責任投資原則(PRI)にて勤務した。博士号取得後は、一橋大学大学院法学研究科特任講師(ジュニアフェロー)を経て現職。リカレント教育を中心とした同大学院新領域創成科学研究科サステイナブル・ファイナンス・スクールの運営に携わり、学問分野横断的な知見と実務の融合を目指す。

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キーワード: #脱炭素

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