記事のポイント
- 木材は炭素を固定するからという理由で木造建築物は増えている
- だが、建築の現場を見ると、この論法がマヤカシに過ぎないことに気付く
- 木造建築がカーボンニュートラルではない理由を解説する
木材は炭素を固定するから木造建築物をもっと建てよう――。このところ、そうした論調が目立ち出した。木を伐って木材として利用するとともに跡地に植林したら、カーボンニュートラルだというのである。実際、公共建築を中心に木造建築物は増えている。(森林ジャーナリスト=田中 淳夫)
その理屈はこうだ。樹木は光合成を行う際に二酸化炭素を吸収し炭素を木質として貯め込む。その樹木を伐って建材として利用すれば建築物の耐用年数分(数十年から100年以上)は炭素を固定する。
一方で伐採跡地に新たな木を植えたら、それが成長する過程で二酸化炭素を吸収する。だから大気中の二酸化炭素を減らせるというのだ。
この理屈、なるほどと思わせる。だが、林業や製材の実際、そして建築の現場を見ると、この論法がマヤカシにすぎないことに気付くだろう。
まず山で育てた木の全部が建材になるわけではない。一般的には3分の1程度だ。大木であっても曲がりがある、傷がある、太さが足りないなど使えない木は多いのだ。
建材にならない木は、よくて合板用か製紙チップ、バイオマス発電の燃料に回されるが、林地に残されて朽ちて行く分も多い。さらに建材に向いた真っ直ぐな木も、搬出するのは幹の一部である。樹皮、根、切株、枝葉、梢などは林地に残される。
そして搬出した丸太を角材や板に製材する過程で多くの端材を出す。その歩留りは約5割とされる。合板にすると最大6割まで利用できるというが、集成材にする場合は3割程度だ。
この時点で、建築物の材料になるのは森の樹木のごく一部であることがわかるだろう。つまり伐採した木のうち建築物として長く保てる(炭素を固定する)のは2割以下なのだ。
■CO2排出量が増える可能性も