「ジェンダーレス」はなぜ広がったのか

記事のポイント


  1. 近年、学校や企業で「ジェンダーレス制服」が広がっている
  2. 多様性の価値観を社会に広めているのは、若い世代の意識の変化だ
  3. 性別にとらわれない「ジェンダーレス」が広がる背景を考察した

近年、学校や企業で「ジェンダーレス制服」が広がっている。多様性への配慮やSDGsの浸透による、特に若い世代の意識の変化がこの広がりを後押ししている。制服によって性差を意識することが減ることは、性的役割にとらわれた無意識の偏見、すなわち「アンコンシャス・バイアス」を無くすことにもつながっていく。(サステナビリティ・プランナー=伊藤 恵)

ファッションやコスメ分野で「ジェンダーレス」は広がる

■ジェンダーレス制服を採用、公立高校の約3割で

ジェンダーレス制服は、性差が出にくい男女共通柄、ユニセックスなデザインの「男女兼用型」と、スカート・スラックス・ネクタイ・リボンなどの組み合わせを自由に選べる「選択型」の二つに大別される。

このいずれかのジェンダーレス制服を導入している公立高校は、少なくとも969校あり、全国ですでに3割近くになっている。背景には、自分らしい服装が選べないことで不登校になる生徒もおり、学校に柔軟な対応が求められているという状況もある。

■服装のジェンダーレス化、企業でも広まる

企業の制服でも変化が起きている。髪形や服装を個人が自由に選択できる環境を整備し、男女で区別のないデザインを採用したり、女性のパンツスタイルを拡充したり、新しい制服を導入するケースも目立つ。

たとえば、東京ディズニーランド、東京ディズニーシーを運営するオリエンタルランドでは、キャストの制服における男女別の表記を撤廃した。キャスト自身が希望するコスチュームを着用できるようにした。

髪色などの身だしなみに関するルールも性別にかかわらず全てのキャストを対象にルールを統一した。

JALは航空運送部門で新制服を導入した。客室乗務員の制服ではワンピーススタイルなどに加え、パンツスタイルを用意した。高島屋も一般制服を完全に撤廃した。

流通業界に限らず地方銀行などでも従業員の多様性、自由な働き方を推進すべく、制服自体の廃止に踏み切る企業は年々増加傾向にある。

■ジェンダーレスの波はコスメにも

かつては女性のものというイメージが強かった化粧も、今は広告で男性起用が進んでいる。そしてメンズコスメ市場も過去15年に渡り拡大傾向にある。

2022年の市場規模は2007年と比較して約1.4倍に拡大している。性別にとらわれない価値観の浸透が、市場の拡大を後押ししているといえるだろう。

コスメ以外にもランドセルの色や、遊ぶ子どもの性別を規定しないおもちゃなど、若い世代を接点とするところを中心にさまざまな商品にジェンダーレス化は広がっている。

■ファッションから「無意識の偏見」を考える

SDGsを学校で学ぶようになり、若者の意識は着実に変化してきている。Z世代を対象に実施したSDGsに関する調査(※)では、 SDGsにおける17の目標のうち、日本がより力を入れて取り組むべきだと思う目標は「ジェンダー平等を実現しよう」が42.9%で第1位だった。

「男なんだから」 「女なんだから」という性別「らしさ」を強要されることに違和感・不平等感を感じる人も64.6%と高い数値になっている。

こういった若者の意識の変化から、ジェンダーレスファッションが受け入れられ、その様子をみて周りの意識も変化していくというサイクルが生まれていることが想像できる。※Z世代のジェンダー・多様性に関する意識調査(株式会社SHIBUYA109エンタテイメント 2024年)

服だけでなく、コスメやグッズなどでもジェンダーレスのムーブメントが広がり、今まで無意識に思い込んでいた男らしさ、女らしさに疑問を持ち考えるきっかけが生まれる。

これから企業や学校での取り組みがさらに進んでいけば、若い世代のみならず、より幅広い世代の意識も高まり、アンコンシャス・バイアスがなくなっていくサイクルが社会で生み出せるのではないだろうか。

itomegumi

伊藤 恵(サステナビリティ・プランナー)

東急エージェンシー SDGsプランニング・ユニットPOZI サステナビリティ・プランナー/コピーライター 広告会社で企業のブランディングや広告制作に携わるとともに、サステナビリティ・プランナーとしてSDGsのソリューションを企業に提案。TCC新人賞、ACC賞、日経SDGsアイデアコンペティション supported by Cannes Lionsブロンズ受賞。執筆記事一覧

執筆記事一覧

お気に入り登録するにはログインが必要です

ログインすると「マイページ」機能がご利用できます。気になった記事を「お気に入り」登録できます。
Loading..