インクルージョンを力に変える国際組織「V500」とは

記事のポイント


  1. 「インクルージョン」という考えを経営戦略に組み込む動きが加速してきた
  2. この動きを主導するのは、国際イニシアティブ「V500」だ
  3. 世界500社以上のビジネスリーダーが、障がい者雇用の経済性を強調する

障がいや年齢などあらゆる多様性を認め合い共生社会の実現を目指す「インクルージョン」という考えを経営戦略に組み込む動きが加速してきた。この動きを主導するのは、国際イニシアティブ「V500」だ。世界500社以上のビジネスリーダーが結集し、福祉の観点ではなく、障がい者雇用の経済性を強調する。(オルタナ副編集長=池田 真隆)

インクルージョンな社会を目指す国際組織「V500」

V500の正式名称は、「The Valuable 500」だ。2019年1月に開いた世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)で、アイルランド人の社会起業家キャロライン・ケイシー氏が立ち上げた。視覚障がいを持つケイシー氏は、障がいのある人に対する社会の認識や仕組みの変革を目指したソーシャルビジネスを行う。

V500は、障がいのある社員が持つ潜在的な価値を引き出すため、経営者にインクルージョンの概念を自社に取り入れることを促す。

8兆ドルのインクルージョン市場の開拓を狙う

世界の障がい者人口は約10億人だ。障がいのある人とその友人や家族を合わせた購買力の総額は8兆ドル(Return on Disability (2016) Annual Report: The Global Economics of Disability 参照)と推測されているが、インクルーシブなデザインで製品を企画する企業はわずかだ。V500では、この巨大市場の開拓を狙う。

会長はサステナ経営で有名なユニリーバ前CEOのポール・ポルマン氏が務め、リチャード・ブランソン・ヴァージン・グループ会長やジュリー・スウィート・アクセンチュアCEOも活動を支援する。障がい者支援の取り組みでこのようなグローバルな動きはこれまでになかった。

同イニシアティブには世界45カ国から500社以上が加盟する。そのうち、日本企業は、コクヨ、積水ハウス、ソニー、ソフトバンクなど54社だ。

東京で2025年に国際サミット、機運醸成へ

日本でこのイニシアティブを広げる「旗振り役」に名乗りを上げたのは、日本財団だ。2021年にV500と契約を結び、2023年までの3年間で500万ドル(約5.2億円)を支援した。

5月30日には、国内の会員企業13社が集まり、各社のインクルージョンの取り組みを共有するイベントが開かれた。場所は、コクヨのダイバーシティオフィス「HOWS PARK(ハウズ パーク)」だ。

同イベントは、2025年12月に東京で開催予定の「V500アカウンタビリティサミット」に向けた機運醸成の一環として開いた。

イベントに登壇したコクヨの井田幸男・CSV本部サステナビリティ推進室理事(写真左)

同イベントでは、コクヨが提唱するインクルーシブデザインの手法である「HOWS DESIGN(ハウズ デザイン)」を会員企業に説明した。

この手法は「社会のバリアを見つける」「解決方法のアイデアを検討する」「試作品で検証する」「具体的な商品やサービスで検証する」という4つのプロセスからなる。各プロセスで多様な人たちとの「対話」を重視する。

コクヨは2024年の新商品のうち、20%以上をハウズデザインで開発した商品にするという目標を掲げる。社内のインクルージョンに取り組みながら、捉えた課題そのものを無くすようなサービスの開発を目指す。

同社の井田幸男・CSV本部サステナビリティ推進室理事は、V500への加盟を決めた理由をこう話した。

「障がいのある方の多様性を認め、インクルージョンできた状態を目指していくことを(人事部や特例子会社の問題ではなく)経営課題として捉えている点、加えて、そのバリアを解決する為には多くの企業とのネットワークを構築していく必要性を感じている点がコクヨの姿勢と一致していた」

M.Ikeda

池田 真隆 (オルタナS編集長)

株式会社オルタナ取締役、オルタナS編集長 1989年東京都生まれ。立教大学文学部卒業。 環境省「中小企業の環境経営のあり方検討会」委員、農林水産省「2027年国際園芸博覧会政府出展検討会」委員、「エコアクション21」オブザイヤー審査員、社会福祉HERO’S TOKYO 最終審査員、Jリーグ「シャレン!」審査委員など。

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キーワード: #ジェンダー/DE&I

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