記事のポイント
- 近年、企業の広告活動においてもSDGsは重要なファクターだ
- カンヌライオンズの受賞作品を中心にSDGsコミュニケーションを考える
- 紹介するのは、AI技術で声の変化を分析し、生活習慣病を診断するものだ
近年、企業の社会課題解決への取り組みが注目されるなかで、企業の広告活動においてもSDGsは重要なファクターになっている。広告業界のサステナビリティのこれからを考えるうえで参考になるのが、世界の広告賞の傾向だ。なかでも世界最大規模の広告・コミュニケーションの祭典「カンヌライオンズ国際クリエイティビティ・フェスティバル(通称:カンヌライオンズ)」は、これからのコミュニケーションのあり方を世界に提示する場にもなっている。(サステナビリティ・プランナー=伊藤 恵)
今回は6月に開催されたカンヌライオンズの受賞作品を中心にSDGsコミュニケーションの今後について考えてく。
■広告賞自体がサステナビリティのお手本に
昨年からカンヌライオンズでは、エントリー時に作品に関連するCO2 排出量の明記や、チーム構成などDE&Iに関する情報を提供するよう奨励している。カンヌライオンズ自体もサステナビリティを促進する取り組みを強化しているのだ。
例えばDE&Iへの取り組みの一環として、「HISPANICS IN CANNES」と題してヒスパニックの団結やキャリアアップを促進するイベントが複数、開催された。
AIやスポーツなど多岐にわたるテーマのセミナーやパーティーもあった。会場もさまざまな人が移動しやすいように配慮された設計になっており、セミナーにも手話通訳を配置して、より多くの人が参加できるようにしていた。
■AIが声で診断する「VOICE 2 DIABETES」

アワードのエントリー作品で AI を使った作品は、昨年過去最高を記録した。2023 年のエントリー作品のうち、 AI を使用した作品は 7.3% で、2022 年の 3.7% から倍増した。その傾向は今年も続いた。
画期的なイノベーション、テクノロジーを活用したクリエイティブを讃えるInnovation Lionsでグランプリを獲得したものもAI技術を活用した施策だ。声の変化を分析するAIツールを用いて、2型糖尿病を診断するシステムを開発した。
このシステムが開発されたインドは糖尿病患者の数が世界第2位だが、半数以上が距離や費用などが理由で未診断だといわれている。自覚症状のないまま患っている患者も多く、その数が世界で2億4千万人というデータもある。この課題を解決すべく開発されたツ―ルが「VOICE 2 DIABETES」だ。
AIの音声分析を活用し、携帯電話を使った手軽なスクリーニングを可能にした。開発にあたって200人以上の参加者を対象に、スマートフォンのアプリを使い、短い音声を2週間にわたって毎日録音し、分析した。
その結果、ピッチの変化や声の強弱の変化など糖尿病患者がもつ14の異なる特徴を見つけた。ツールの精度は非常に高く女性で89%、男性で86%を達成。声で病気を診断するという画期的な方法が確立されれば、インドのように医療アクセスが困難な国や地域でも容易に診断が可能になるだろう。
他の病気でも、声の兆候から病気を発見できるようになれば、糖尿病患者だけでなく、より多くの人々にプラスの影響を与えられる可能性がある。
AIはとても可能性をもったテクノロジーだが、技術がプラスになるようにどう活かすのか、そこにはクリエイティビティが必ず必要だということに気づかされる事例だ。
次回も引き続きカンヌライオンズの受賞作品からSDGsコミュニケーションの今後を考察していく。