株式会社オルタナは2024年6月19日に「サステナ経営塾」20期上期第3回をオンラインとリアルでハイブリッド開催しました。当日の模様は下記の通りです。
①企業事例: 丸井グループのサステナ経営戦略
時間: 10:20~11:40
講師: 塩田 裕子氏(株式会社丸井グループ サステナビリティ部長 兼 ESG推進部長 執行役員)
第1講には、丸井グループの塩田裕子・サステナビリティ部長 兼 ESG推進部長執行役員が「サステナ経営戦略」について講義した。主な講義内容は次の通り。
・丸井グループのサステナビリティ経営推進でキーとなったのが業績の推移だった。順調に業績が推移してきたが、2009年、11年に赤字となった。これが企業が変化し成長するきっかけとなった。青井浩社長を中心にして成長の土台を作っていった。
・通常、企業経営においては「お客さま」「お取引先さま」「投資家・株主」「地域・社会」「社員」という5つのステークホルダーを規定するが、丸井グループでは将来世代を加えて「シックスステークホルダー」の考え方で経営を行っている。
・過去の成功体験にとらわれず、イノベーションを起こし続けられる組織にするために、企業文化の変革を行った。企業理念についての対話を徹底的に行い、企業がやりたいことと社員がやりたいことの軸合わせを行った。この結果、現在は退職率、入社3年以内離職率いずれも業界水準を大きく下回っている。
・「手挙げの文化」もつくっていった。たとえば中期経営推進会議では、参加したいと手を挙げた人が、選考を経て参加できる場所にした。これはグループ全体に広がっている。手を挙げて選考で選ばれた人が会議に出席できる。そのため役職者も新入社員も機会が平等になっている。これらの施策によって12年度から計測している社員のエンゲージメント指標は10年間で大幅に改善した。
・2015年にESG推進部を立ち上げた。メンバーはサステナビリティ推進部のスタッフが兼任している。開示したことによって機関投資家などと対話が始まり、そこで得たヒントをさらなる開示につなげている。
・ただし社内では共感と行動のギャップがまだある。9割がビジョンに共感しているが、どのように行動すればいいかわからない社員が半数以上いる。
・17年には「サステナビリティ経営」を強化するため、先進的なオランダのサステナブル企業との対話を行った。ここで学んだのはバックキャストの考え方、長期ビジョンをセットすることが重要であることだ。そこでの学びを実施したのが、「VISION BOOK 2050」の発行だ。
・この「VISION BOOK 2050」をもとにして定めた方向性が社会課題解決企業の実現だ。これを実現するため、23年6月の株主総会で2050年に向けたビジョンを表した企業理念を実践していくことを定款に盛り込んだ。
・21年5月には、ミッション実現のためのインパクト目標を設定した。投資家からは企業価値や株価につながることが求められる。そこで、社会課題に対してインパクトをもたらすことが、どのような財務価値を生み出すのかについてロジックモデルを作成した。
・インパクトと利益の両立は難しいと言われるが、丸井グループではたとえば全体の利益の8割を生み出すフィンテック領域からインパクトを創出するために、エポスカードでヘラルボニーカードを発行した。障害のあるアーティストの絵を券面デザインに採用し、お客さまのご利用額の0.1%を障がいのある方々を支援する団体に提供していく仕組みにしている。顧客が自然にヘラルボニーを応援することができ、現在では会員が2万人いる。
・応援投資というものもある。丸井グループは国内でビジネスを展開するが、そのなかで途上国向けに投資機会を提供するために、五常と連携し、発行社債で集まった資金を五常を通して途上国に支援している。公募は2億円だったが35億円の申し込みがあり、支援先は3万人に上っている。
・こういった社会課題に対する取り組みを通して事業収益につなげることもできている。応援投資の抽選申し込み後のエポスカード利用額は、非申込者は1.1倍だったのに対して、申込者は1.3倍となった。
・インパクトを開示したあとも、対話が生まれている。たとえば、「第三者の視点をいれてもいいのでは」といった意見や「何の社会課題につながっているのかが気になる」といった声があった。
・現在そういった声を反映するため、「好きを応援」するという仕組みをいれたり、第三者視点を加えたインパクト評価検証を行っている。またインパクトのアップデートを行い、進化した分を新たなKPIに落とし込んでいく。
・社内での効果としては、各部署やグループ各社で経営計画にインパクトの組み込みが始まっている。社員との対話の機会としてもインパクトブックオフ会が始まった。将来世代をステークホルダーに据えているという観点から、投資家向けのインパクトブックを中高生がエディターになってわかりやすいインパクトブックをつくっている。
②脱炭素社会に向けた国内外の動向と企業関連の国際イニシアティブ
時間: 13:00~14:30
講師: 池原 庸介氏(有限責任 あずさ監査法人 サステナブルバリュー統轄事業部 シニアマネジャー)
第2講は、有限責任あずさ監査法人サステナブルバリュー統括事業部の池原庸介シニアマネジャーから、脱炭素社会に向けた国内外の動向と企業関連の国際イニシアティブについて講義いただいた。
1.5℃目標を達成するには、遅くとも2025年までにGHG排出をピークアウトさせなければならない中で、各国による2030年目標(NDC)を達成するだけでは不十分であること、NDCを達成しても2100年には産業革命前から2.1~2.3℃の気温上昇となることを共有した。
2023年COP28で初めて完了したグローバル・ストックテイク(世界の排出削減の現状把握)では、GHG削減の進捗は1.5℃に向けては大きな乖離があると科学的に評価され、「緊急的な行動の必要性」が決定されている。
企業のネットゼロ目標も、グリーンウォッシュを回避するためには、国連(ハイレベル専門家グループ)がネットゼロを定義した10項目の提言書に沿って、包括的な気候移行計画の公表と毎年の進捗状況の報告が重要と説明した。
気候変動関連で押さえておくべき国際イニシアティブとして、全米の非国家主体によるイニシアティブWe Are Still In(WASI)、日本のJCI(気候変動イニシアティブ)、再エネ100%をコミットするRE100のほか、SBTi、CDP、TCFDを挙げた。サステナ開示をめぐる国際動向を概説し、IFRS S2号をTCFDの延長線と捉えるのは早計と警告した。
ネットゼロ提言書に定義され、なおかつ、多くの国際イニシアティブも重視している「気候移行計画」は、非常に重要としたうえで、移行計画に求められる8要素を詳述した。
なお8要素の1つであるシナリオ分析は、1.5℃シナリオが求められており、TCFD対応として過去に2℃シナリオで開示している一部企業はアップデートが必要なこと、また現実味を帯びているのは4℃よりも3℃シナリオだと補足した。気候移行計画は非常に包括的なものであり、過去のTCFD対応とイコールで考えてはならないと注意喚起した。
③・④ワークショップ: SDGsアウトサイドイン①②
時間: 14:35~17:30
講師: 森 摂(株式会社オルタナ 代表取締役/オルタナ編集長)
第3・4講では、「SDGsアウトサイド・イン」ワークショップを行った。主な講義内容は次の通り。
・「SDGsアウトサイド・イン」とは、社会課題の解決を起点に、新規事業を考える戦略だ。SDGsの公式用語でもある。
・アウトサイドのアウトとは「社会」を、インは企業を指す。市場ニーズの先にある、社会ニーズを見出し、そのニーズに対応したビジネスを考えることがこのワークショップの狙いだ。
・このワークショップは、アウトサイド・インの考え方を体験するため、株式会社オルタナが独自の解釈を加えて企画した。
・各グループでパイロット企業(1社)をSWOT分析し、新規ビジネスのアイデアを出し合った。
・約70人の受講者は5~6人でグループを組んだ。グループの中からパイロット企業を1人(一社)選び、SDGsの17目標について、SWOT(強み、弱み、機会、脅威)分析を行った。
・その後、O(機会)で選んだ目標から「最も解決したい目標」をグループで一つ選んだ。その目標の解決に向けて、パイロット企業のリソースをどう生かすか話し合った。
・大手日用品メーカーがパイロット企業であったグループでは、目標2(飢餓の解決)を最大の機会に選んだ。もともと、同社の担当者は衛生課題の解決を重視していた。ディスカッションでは、食品や水などの提供は行なっていないが、飢餓を解決するには、食べる前後の手洗いや歯磨きが欠かせないという意見が出た。同社の担当者は「これまで気付かなかった視点で、新たなマテリアリティになり得ると感じた」と手応えを話した。