「他人事」を「自分事」化する力が組織を変える【戦略経営としてのCSR】

哲学者ニーチェの本を、どのように受け止めながら読むか。よほどの哲学書好きでもない限り、知識の習得と受け止めて読んだのでは、文章の難解さゆえになかなか前に進まない。しかし、あの難しい文章の一つ一つと向き合い、自分の悩みに置き換え、そこから新しい解決策を模索する思考力を身に付けた時、はじめて具体的な行動に繋がる。すなわち、哲学書のような難解な文書と向き合い、あらゆる事柄を自分事としてとらえることのできる能力が、リベラルアーツ的思考力である。

では、そのような力を付けるためにはどうすべきか。書籍などの文書を受け身の姿勢でただ知識として会得するのではなく、能動的に向き合うことだ。「議論を吹っ掛けて深く読む」、「ケンカ読法で真の理解」などと表現されるが、作者の意見と自分の考えを比べながら頭の中で対話や議論をしながら読むことだ。多読の必要はない。読み流すような受け身の姿勢ではなく、大切な部分にフォーカスし、しっかり向き合いながら、自分の考え方と対比させ、一文一文と対話していく。

それらを繰り返していくうちに、はじめは自分とは関係ないと思えた事でも、自分事に置き換えていく習慣が身に付く。ここでいう古典とは、年代・国などを指すのではない。長く多くの人に親しまれ読まれてきた本であれば、最近の著作でもかまわない。

CSRに取り組むためには、このようなリベラルアーツ的思考力を身に付けたうえで、できるだけ多くの情報に触れることだ。あらゆる事象を自分事としてとらえる習慣を持ったうえで、世界で起きている様々な現象に対して自身の事業の領域の中でできることがないかを常時模索する。環境変化を自分事としてとらえ、自社にできることに結び付けて考えられる力こそがCSRへ取り組む前提となる思考力だ。

このようなリベラルアーツ的思考力を持つことで、自分とは異なる価値観を受け入れることが可能になり、異なる価値観を持つステークホルダーとの協働ができるようになる。また、社員一人ひとりがあらゆる物事を自分事化してとらえる組織風土ができることで組織も活性化される。

古典との対話を通したリーダー教育は、日本アスペン研究所や慶応大学福澤諭吉記念文明塾などでも行っており、CSR担当者ならば一度は参加してみることをお勧めする。

【おおくぼ・かずたか】新日本有限責任監査法人シニアパートナー(公認会計士)。新日本サステナビリティ株式会社常務取締役。慶応義塾大学法学部卒業。教員の資質向上・教育制度あり方検討会議委員(長野県)。大阪府特別参与。京丹後市専門委員(政策企画委員)。福澤諭吉記念文明塾アドバイザー(慶應義塾大学)。公的研究費の適正な管理・監査に関する有識者会議委員。京都大学・早稲田大学等の非常勤講師。公共サービス改革分科会委員(内閣府)ほか。

(この記事は株式会社オルタナが発行する「CSRmonthly」第8号(2013年5月7日発行)」から転載しました)

大久保 和孝氏の連載は毎月発行のCSR担当者向けのニュースレター「CSRmonthly」でお読みいただけます。詳しくはこちら

editor

オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

執筆記事一覧
キーワード:

お気に入り登録するにはログインが必要です

ログインすると「マイページ」機能がご利用できます。気になった記事を「お気に入り」登録できます。
Loading..