大久保 和孝(新日本有限責任監査法人 CSR推進部長)
先月、経団連関係のCSRミッションとして4年ぶりに欧州を訪問した。印象的だったのは、先進的な企業の多くが、人口爆発や高齢化問題、資源の枯渇、災害の多発、貧困などの社会リスクを急務な経営課題として認識し、一企業だけでは解決困難な問題にも、あらゆる角度から対応方法を検討し、経営戦略の中に組込もうとしていることだ。
社会リスクが経営リスクそのものとなり、それら社会リスクを経営戦略に統合した戦略を立てることが企業価値を左右するまでになったのだ。
とりわけ、この数年間で経営環境は大きく変化している。とくに社会リスクの複雑性が増すにつれ経営の中における社会リスクへの対応の重要性が高まっており、それらを明確な形で経営戦略に統合する必要性が生じている。
なかには社会リスクへの対応を個別の経営課題としないために「CSR 部」を独立の部署とはせず、経営企画部門の中に統合する企業もでてきた。独立の部署とすることにより、社会リスクは特定部門が個別に対応するものだといった、社内的な誤解を招きかねないからだ。
このことはステークホルダーからの要求にも明確に出ている。各ステークホルダーは、課題解決にあたってCSR部門ではなく、各分野ごとの中核部署との直接的な対話を要請するようになってきている。
慈善事業としてのCSRから経営の主流化へ
もう一つ興味深いのは、欧州委員会の考え方の変化だ。各企業や産業に対して、何か特定の課題解決を促すのではない。企業の自主性を前提としながらも、社会リスクへの対応を経営戦略の中に明確な形で組込むことを要求するとともに、それを実施していくプロセスを情報開示させようとしていることだ。情報開示を通した社会とのコミットメントを明確にさせることでCSR 活動を促そうとしている。
特に重点を置いているのは、CSRに関する宣誓ではなく実現するためのプロセスの明示だ。欧州委員会としては宣誓そのものを新たに策定はせずグローバルコンパクトやOECDガイドラインなど既存の国際的行動規範を尊重するものの、むしろアクションプランの策定と実行こそが重要としている。