もちろん、1970年代の公害対応の時代から始まり、社会貢献、リスクマネジメント、コンプライアンス対応という社会の要請に応えつつ、本業を通した「攻めのCSR」で積んできた実績があればこそ、CSR を進化させた形のCSV にスムーズにかじを切ることができたのであろう。

外部環境の変化も見逃せない。少子化による人口減少、若者の雇用不安、アルコール離れ、地方の人口減少など総合飲料メーカーをめぐる環境は厳しさを増している。収益事業と離す形で、CSR を業務の一部として限定的にとらえ、ステークホルダーとの対話や環境配慮、社会貢献を考えるというやり方ではもう通用しない。社会的課題に挑戦し、それが利益にもつながるというCSV は経営にCSR が入っていて、時代の要請にぴったりなのだ。

キリンのCSVには3つのアプローチがある。

1. 製品・サービスの提供を通じた社会課題への取り組み
・アルコール度0.00%のキリンフリーで飲酒運転のない安全な社会を実現する
・アフリカのマリ共和国の水問題を解決する「Volvic 1L for 10L プログラム」

2. バリューチェーンの「競争力強化」と「社会への貢献」の両立
・軽量ビン、缶の軽量化、コーナーカットカートン
・ペットボトルワイン

3. 地域社会での「競争基盤の強化」と「地域への貢献」の両立
・東日本復興応援・キリン絆プロジェクト
・メルシャン国産原料
・キリンビバレッジ社会貢献型自動販売機

太田主幹に、CSVを社内でどう説明しているか尋ねてみた。

「そうですね。キリン流にいえば、『社会をよくして、企業(キリン)も強くなる』ですかね」

太田主幹のところには、他の企業のCSR 担当者からキリンのCSVに関する問い合わせが引きも切らないというが、「トップに理解がない場合、CSV本部を作るのは大変。『攻めのCSR』をしっかりやっているところは、それで十分なのでは」。

確かに、CSRとCSVは別物ではない。要は中味である。

【はらだ・かつひろ】日本経済新聞社ではサンパウロ、ニューヨーク両特派員。国連、NGO、NPO、社会起業家のほか、CSR、BOP ビジネスなどを担当。日本新聞協会賞受賞。2010 年明治学院大学教授に就任。オルタナ・CSR マンスリー編集長。著書は『CSR優良企業への挑戦』『ボーダレス化するCSR』など。

(この記事は株式会社オルタナが発行する「CSRmonthly」第10号(2013年7月5日発行)」から転載しました)

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