豪州初のグリーンウォッシング判決、マーサー年金基金に

記事のポイント


  1. 豪連邦裁判所はこのほど、豪州初の「グリーンウォッシング判決」を下した
  2. マーサー年金基金に約11億円の罰金を命じた
  3. ESG投資を掲げたが、投資先に化石燃料やギャンブル関連企業が判明した

オーストラリア連邦裁判所は8月2日、マーサー年金基金(Mercer)に対し、約740万ドル(約11億円)の罰金を命じた。ASIC(オーストラリア証券投資委員会)が昨年2月に提起した初のグリーンウォッシング事件の判決である。マーサーの投資先に化石燃料、アルコール生産、ギャンブルに関与する企業が明確になった。(オルタナ総研フェロー=室井 孝之)

マーサー年金基金(Mercer)はウェブサイトで宣伝していた「Sustainable Plus」投資オプションにおいて、炭素集約型の化石燃料、アルコール生産、ギャンブルに関与する企業への投資を排除すると主張していたが、実際にはそれらの企業に投資していたことが確認された。

具体的には、AGL Energy Ltd(オーストラリア最大の電力生産者、炭素排出者)、BHP Group Ltd(世界最大のオーストラリア鉱山会社)など化石燃料の採掘や販売を行う15社、Budweiser Brewing Company (米国)、Carlsberg AS(デンマーク)、Heineken Holding NV(オランダ)などアルコールを生産する15社、Aristocrat Leisure Limited(豪州)、Caesars Entertainment Inc(米国)などギャンブル業界に関わる19社に投資されていた。

この事件に対し、裁判官は「MercerがESGに関する主張の正確性を確保するための適切なシステムを実施しなかったことが、この重大な違反を引き起こした」と述べた。消費者が金融商品のESG主張に信頼を寄せられることの重要性を強調した。

ASICの具体的な規制介入は、以下の通りだ。

1.ESG投資のスクリーニングと投資方法論の範囲に関する開示が不十分であること
2.開示されたESG投資のスクリーニングおよび投資方針と矛盾する基礎となる投資
3.合理的な根拠がない、または十分な詳細がないサステナビリティ関連の主張

ASICのグリーンウォッシング監視活動は、上場企業、マネージドファンド、スーパーアニュエーションファンド、ホールセールグリーンボンド市場など、幅広いセクターをカバーしている。

ASICは、現在のガバナンスと開示基準の監督と実施を通じて市場の健全性と効率性を支援することに注力し、グリーンウォッシングによる害を軽減するとともに、気候関連の財務開示要件に密接に取り組んでいる。

ASICコミッショナーのケイト・オルーク氏は、次のように強調した。

1.グリーンウォッシングとの闘いは、持続可能な金融関連の製品やサービスへの信頼を維持するために重要である
2.投資家と消費者は、情報に基づいた自信を持って投資決定を下すことができるように、正確で信頼できる情報を得る権利がある
3.グリーンウォッシングの不正行為を特定した場合、ASICは投資家と消費者を保護し、市場の健全性を維持するために介入した

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室井 孝之 (オルタナ総研フェロー)

42年勤務したアミノ酸・食品メーカーでは、CSR・人事・労務・総務・監査・物流・広報・法人運営などに従事。CSRでは、組織浸透、DJSIなどのESG投資指標や東北復興応援を担当した。2014年、日本食品業界初のダウ・ジョーンズ・ワールド・インデックス選定時にはプロジェクト・リーダーを務めた。2017年12月から現職。オルタナ総研では、サステナビリティ全般のコンサルティングを担当。オルタナ・オンラインへの提稿にも努めている。執筆記事一覧

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キーワード: #ESG投資

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