記事のポイント
- 米国で、ESGを投資手法に組み入れる動きへの反発が強まってきた
- ESG投資の専門家は、ESGを考慮しない運用機関は「ほぼない」と言い切る
- 企業には、「マテリアルファクター」の特定を求めた
2024年に大統領選を控える米国で、ESG(環境・社会・ガバナンス)を投資手法に組み入れる動きへの反発が強まってきた。だが、コロンビア大学でESG投資を教える本田桂子氏は、ESGを考慮しない運用機関は「ほぼない」と言い切る。米国で起きているESG投資を巡る論点を踏まえ、企業には、「マテリアルファクター」の特定を求めた。(オルタナS編集長=池田 真隆)
■ESGの考慮は受託者責任に反するのか
結論から先に申し上げると、米国ではESGを考慮した投資手法が当たり前になってきた。ESGを考慮しない運用機関は「ほぼない」と言い切れる。この流れを押さえた上で、企業に求められることを提言したい。
米国で起きているESG投資を巡る論点は2つだ。一つは、企業年金などの年金基金の運用に、ESGを考慮することが「フィデュシャリー・デューティー」(受託者責任)に反すかどうかだ。
欧州では2016年に「EU職域年金基金指令」で、一定規模以上の企業年金においては、運用方針にESGを考慮することを認めた。日本もGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が2015年にPRI(国連責任投資原則)に署名したことで、ESGを考慮しても受託者責任に反しないという立場を明確化した。
米国は欧州や日本に遅れを取ったが、2022年11月に企業年金が投資先を選ぶ際にESGを考慮することを認める規則を発表し、2023年1月に施行した。
だが、共和党の影響力が強い米南部フロリダ州などを中心に「反ESG」の動きが活発化し、3月には同規則を無効とする決議が上院と下院の両院で通過した。施行してからわずか2カ月後の出来事だ。
バイデン大統領は、この無効決議に対して、大統領就任後初となる拒否権を発動した。一般的に大統領が拒否権を発動するとバックラッシュ(揺り戻し)が起きるが、今回は起きていない。
このことから、気候変動リスクは将来起きるリスクではなく、顕在化していることが分かる。
今年5月、住宅損保大手ステート・ファーム・ゼネラル・インシュアランスは山火事が相次ぐ米カリフォルニア州での住宅保有者向けの新規保険契約を停止した。ニューヨークの空は、カナダの山火事によって、オレンジ色に変わった。こうした状況から、いつか訪れるリスクではなく、「今起きているリスク」として認識されだした。
■ESGは、アナン事務総長の「手紙」から生まれた
■「経済学的には、EとSとGの間に関係性はない」
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■企業は「マテリアルファクター」の特定目指せ