記事のポイント
- 環境省はGHG排出量の算定で、一次データ(実測値)推奨をいつ打ち出すのか
- 本来は今年3月末に、算定ガイドラインを改訂し、打ち出す予定だった
- 改訂版の調整ができなかった理由や今後の予定について担当官に聞いた
環境省は、温室効果ガス(GHG)排出量の算定について、排出源を直接計測する「一次データ(実測値)」の推奨を打ち出し、今年3月末に算定方針を発表するとしていた。これまでの「二次データ」は推測値に過ぎず、その正確性が問われていたからだ。ところが、その発表が遅れに遅れている。一説によると2025年中ごろまで掛かる可能性があるという。何が問題なのか、ガイドライン作成の担当官に聞いた。(オルタナ副編集長=池田 真隆)
環境省が発行する算定ガイドラインとは、「サプライチェーンを通じた温室効果ガス排出量算定に関する基本ガイドライン」を指す。スコープ1~3全体のGHG排出量の算定方針を定めたものだ。
このガイドラインの最新版は2022年3月に改定したものだが、算定方針として、二次データ(推計値)と一次データ(実測値)の両方での算定式を示した。環境省として、どちらの算定式を推奨するかは示していない。
多くの企業が二次データ(推計値)でGHG排出量を算定しているが、2024年3月末に発行を予定していた改訂版で、「一次データ(実測値)推奨」を打ち出すはずだった。環境省は、全業界共通の一次データ(実測値)での算定式を示すことを考えていた。
だが、業界によってサプライチェーンの規模が違ったり、鉄鋼業のように脱炭素技術が確立できていない業界もあったりした。業界ごとに事情が大きく異なるので、全業界共通の算定式としてとりまとめることに難航した。
■「正確性」と「簡易性」で意見割れる
夏ごろまでは論点を整理しながら、年内の発行を考えていたが、調整が進まなかった。8月に入り、仕切り直すことに決めた。
ガイドラインの改訂作業を担当する環境省地球温暖化対策課脱炭素ビジネス推進室の杉井威夫室長は、「データの精緻化を求めすぎると算定することに負荷が掛かり、削減まで進まない。正確性と簡易性の両立が難しかった」と話した。
年内には委託業者を決める。業者が決まり次第、改訂作業を進めるが、今度内(2024年3月まで)の発行は難しい可能性が高いという。2025年夏以降になることもある。
これまで議論した内容がベースにはなるが、政府として示す算定方針なので、全業界に与える影響は大きい。各業界団体と意見交換をしながら、落としどころを見つけていく。
■「『一次データ推奨』の方針は変えない」
仕切り直しを図るが、「一次データ(実測値)推奨の方針は変えない」と杉井室長は話す。「二次データ(推計値)を使ってサプライチェーン上で排出量が多いホットスポットを特定し、一次データ(実測値)で削減していく考え方は変えない」とした。