記事のポイント
- 日本政府のAZEC構想が「化石燃料の延命措置」と批判を受ける
- 構想はアジアの脱炭素化の名目で、アンモニア・水素混焼などを推進
- 現地NGOは「誤った気候変動対策」「人権侵害」だと抗議する
日本政府は「アジア・ゼロエミッション(AZEC)共同体」構想を掲げ、日本国内のみならず、アジア各国でも火力発電のアンモニア・水素混焼を推進する方針だ。8月にはインドネシア・ジャカルタに新たな拠点を構えた。これに対し、現地の環境NGOなどは「化石燃料の延命措置に過ぎない」と批判を強める。(オルタナ副編集長=吉田 広子)
「GX政策では、グリーンではなく、あえて『クリーンエネルギー』への転換をうたっている。日本政府は、GX政策が『グリーン』ではないことをよく理解しているはずだ」
バングラデシュ環境弁護士協会のバリエーシュ・チョードゥリー氏は、こう指摘する。
AZECは岸田文雄首相が提唱し、ミャンマーを除く東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟国と日本、オーストラリアの11カ国で構成する。日本が得意とする水素やアンモニア、省エネなどに関する技術をアジアの各国に提供し、脱炭素化を後押するという。具体的には、火力発電のアンモニア・水素混焼、LNG(液化天然ガス)、CCUS(CO2の回収・利用・貯留)などに取り組む。
混焼とは、一つの燃料だけを燃やす「専焼」に対し、混焼は複数の燃料を混ぜて燃焼させること。ガス火力発電では天然ガスに水素を、石炭火力発電では石炭にアンモニアを混ぜ、既存の発電設備を利用して発電する。
アンモニアや水素は燃焼時にCO2を排出しないため、日本政府は「非化石エネルギー」だと定義する。混焼することで、化石燃料を削減するという考えの下、2021年10月に閣議決定した「第6次エネルギー基本計画」では、30年までに、ガス火力発電への30%水素混焼や専焼、石炭火力発電への20%アンモニア混焼の導入・普及を目標として掲げた。
しかし、水素・アンモニアのほとんどは化石燃料由来で、製造工程に加え、輸送段階でも大量のCO2を排出する。アンモニアの50%混焼を実現した場合でもガス火力発電よりも多くの温暖化ガスを排出するとの試算もある。チョードゥリー氏の日本のGX政策に対する指摘もここに帰結する。
AZECが重視するのは「多様な道筋による脱炭素」や「脱炭素と経済成長、エネルギー安全保障の3つの両立」の二つ。「多様で現実的な道筋」とは、言い換えれば、一定の化石燃料の活用も「やむなし」というスタンスだ。火力発電のアンモニア・水素混焼は再生可能エネルギーが普及するまでのトランジション(移行)燃料とするが、発電会社JERAが実証実験する20%混焼の商用化は2040年ころまで待たないといけない。
チョードゥリー氏は、「移行燃料というのであれば、いつ再エネに転換するのか。GXもAZECも、化石燃料の延命措置に過ぎない」と批判する。
チョードゥリー氏は、「移行燃料というのであれば、いつ再エネに転換するのか。GXもAZECも、化石燃料の延命措置に過ぎない」と批判する。
■JERAも後押し