人材育成はプロデュース力で【戦略経営としてのCSR】

例えば、経営者に会計の講義をしても必要性を感じなければ経営には生きない。知識教育は最小限に抑え、むしろ、会計の視点から経営を考え、知識をどう生かせるか、短い時間に繰り返し考え、「自分ごと化」することで能動的に参加してもらう。社内での戦略の共有でも、一方的な説明では十分に浸透しない。説明を短く区切り、グループディスカッションを重ね、参加者それぞれが「自分ごと化」することで浸透を図る。

このことは研修だけでなく、あらゆるところで求められる。コンプライアンス研修、戦略の共有、リーダーからチームへの伝達など、すべての場合で同じことが言える。

教育現場も大きく変化している。公開オンライン教育の普及により、基本的な知識は事前に伝え、教室では対面でなければなしえない、応用課題や討議を行う形に加速度的に変化するだろう。体系的な知識を順序立てて教える知識伝達型の教師では務まらない。教師も、権威主義的発想から脱却し、生徒が理解できるような授業のプロデュース力が求められる。

コンテンツではなく研修のコンセプトがカギ

時間には限りがある。人材育成のためとは言え、何でも研修というのは無理がある。社員が一堂に集まる時間は貴重だ。その貴重な時間を、知識の共有の場ではなく、活用と訓練の場にしなければならない。社内研修は、当然目新しい、面白い知識をくれるものと、お客様気分でいる受動的な受講生も多い。これからは、基本的な知識は各自が事前学習し、研修はその知識を生かす場と位置付けることで、能動的な参加を促し、参加者の意識を変える。

研修をプロデュースする際の大事なポイントは、これまでのしきたりにこだわらず、受講者視点で取り組むこと。迎合するのではなく、受講者が「自分ごと化」するためにどうすべきか、全体的な視点から考える。そして、全体のコンセプトを尊重した研修計画にする。講義内容(コンテンツ)に特色をもたせるのではなく、研修のコンセプトを明確にする。そのコンセプトを実現できるコンテンツをプロデュースすることが研修の効果を高める。

【おおくぼ・かずたか】新日本有限責任監査法人シニアパートナー(公認会計士)。新日本サステナビリティ株式会社常務取締役。慶応義塾大学法学部卒業。教員の資質向上・教育制度あり方検討会議委員(長野県)。大阪府特別参与。京丹後市専門委員(政策企画委員)。福澤諭吉記念文明塾アドバイザー(慶應義塾大学)。公的研究費の適正な管理・監査に関する有識者会議委員。京都大学・早稲田大学等の非常勤講師。公共サービス改革分科会委員(内閣府)ほか。

(この記事は株式会社オルタナが発行する「CSRmonthly」第12号(2013年9月5日発行)」から転載しました)

大久保 和孝氏の連載は毎月発行のCSR担当者向けのニュースレター「CSRmonthly」でお読みいただけます。詳しくはこちら

editor

オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

執筆記事一覧
キーワード:

お気に入り登録するにはログインが必要です

ログインすると「マイページ」機能がご利用できます。気になった記事を「お気に入り」登録できます。
Loading..