余剰パンからクラフトジン造り、食品ロス削減に

記事のポイント


  1. ニュージーランドで、大量に廃棄されるパンからスピリッツづくりが始まった
  2. ニュージーランド南島の町ダニーデンで暮らす女性2人で始めた
  3. ロンドンスピリッツコンペティション」で受賞するなど、注目が集まっている

「パンからアルコールを造れないか」。大量に廃棄されるパンの問題を知った、ニュージーランド南島の町ダニーデンで暮らす女性2人は、素朴な疑問からスピリッツづくりを始めた。スーパーやパン屋から食用に適さなくなったパンやスコーンを集め、5種類のスピリッツを醸造する。「ロンドンスピリッツコンペティション」で受賞するなど、注目が集まっている。(ニュージーランド=クローディア―真理)

創業者のスー・ストックウェルさん(左)と、ジェニー・マクドナルドさん
創業者のスー・ストックウェルさん(左)と、ジェニー・マクドナルドさん

ダニーデン・クラフト・ディスティラーズ(DCD)は社会的、経済的、環境的にサステナブルな地元密着型の蒸留所を目指す。多くの蒸留所が、ジンなどのスピリッツのベースアルコールをほかから購入する中、DCDは廃棄物を減らすべく、余剰パンから造る。

ニュージーランドで1年間に廃棄されるパンの量は、約3000トンだ。ダニーデンでは、76トンのパンが捨てられているという。

パンは、フードレスキュー組織のキウィハーベストの協力を得て入手している。スーパーやパン屋から回収した中から、食用に適さなくなったパンのみを原料にする。アイシングが乗った菓子パンや、ドライフルーツが入ったスコーンなども問題ない。パンでマッシュを作り、発酵後、蒸留・ろ過し、ベースアルコールができる。

さらにボタニカルと共に蒸留。町の北端にある、カーギル山で採取した雨水でアルコール度数を調整すれば、DCDのスピリッツの出来上がりだ。約4斤のパンを使って1リットルを造っている計算だという。

DCDは現在、5種類のスピリッツを醸造している。味、見た目、値頃感と総合的な質を審査するコンクール「ロンドン・スピリッツ・コンペティション2023」で、合わせて金賞1つと銀賞2つを獲得。ベースアルコール造りに余剰パンを利用した革新性と創造性が、高評価の一因だろう。

余剰パンは、キウィハーベストが届けてくれる

■救出したパンは1万850kgに

ベースアルコール造りに余剰パンを用いることで、環境に与える好影響は多岐にわたる。食品廃棄物と温室効果ガス排出の抑制はもちろん、農業資源の保全、節水、農作物育成時に使用する農薬や化学肥料の削減、乳児用食品や医薬品の基質となる乳糖の節約などが挙げられる。

蒸留作業に要する電力は、エコトリシティが供給する100%再生可能エネルギーで賄う。エコトリシティは、独立した第三者監査機関、トイトゥー・エンバイロケアのクライメート・ポジティブ認証を保持する、国内初かつ唯一のエネルギー供給業者だ。

製造過程で出る廃棄物は、商業用堆肥に加えられ、再利用されていたり、地元の雇用・収益創出に貢献したりと、企業活動の細部に至るまで、倫理・環境面への気遣いが見られる。

DCDは、誰もが環境を保護する役割を担うと信じている。余剰パンをスピリッツにする工程を見学できる、ブレッド・トゥ・ボトル・ツアーは、一般人の啓発には最適。またDCDのスピリッツの購入を通して、消費者は環境保護の一端を担うことも可能だ。

ビジネスモデルが成功したら、最終的には社外と共有する計画だ。9月17日現在、ごみ処分からDCDが救った、余剰パンは1万850キログラム。今後この数字が大きくなることは間違いない。

mari

クローディアー 真理・ニュージーランド

1998年よりニュージーランド在住。東京での編集者としての経験を生かし、地元日本語月刊誌の編集職を経て、仲間と各種メディアを扱う会社を創設。日本語季刊誌を発行するかたわら、ニュージーランド航空や政府観光局の媒体などに寄稿する。2003年よりフリーランス。得意分野は環境、先住民、移民、動物保護、ビジネス、文化、教育など。近年は他の英語圏の国々の情報も取材・発信する。執筆記事一覧

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