アンモニアのコストは石炭の3倍、石炭火力の延命は割合わぬ

記事のポイント


  1. 日本政府は、石炭にアンモニアを混焼すればCO₂を削減できると理屈付ける
  2. しかし、アンモニアは「製造時」や「輸送時」に大量のCO₂を排出してしまう
  3. コストも石炭の約3倍に。アンモニアによる石炭火力の延命は割に合わない

日本政府は、「アンモニアを混ぜれば温室効果ガスを削減できる」という理屈で、石炭火力の延命を図ろうとしている。しかし、アンモニア発電は大量のCO2を排出し、発熱量当たりのコストも石炭の約3倍になる。(オルタナ客員論説委員=財部 明郎)

2024年4月のG7気候・エネルギー・環境大臣会合(イタリア・トリノ)で、「『温室効果ガス削減対策を採っていない』石炭火力発電所は2030年代前半までに段階的に廃止する」という閣僚声明を取りまとめた。

日本は全発電量のうち約30%を石炭火力に依存している。このため、石炭火力発電を廃止するのは、なかなかハードルが高い目標である。

そこで注目されているのがアンモニアを石炭に混ぜて発電する「アンモニア発電」である。アンモニアは窒素と水素の化合物であり、炭素が含まれていないので燃えてもCO2を排出しない。窒素と水になるだけだ。

大臣会合でまとめた声明で段階的に廃止するのは「温室効果ガス削減対策のとられていない」石炭火力発電所とされているから、アンモニアを混ぜることが温室効果ガス削減対策だといえば、石炭火力を継続してもかまわないという理屈である。

アンモニア発電を推進しているJERA (東京電力と中部電力が出資して設立された発電会社)は、アンモニアを使って「CO2が出ない火をつくる」と表現。アンモニア発電がいかに気候変動対策に貢献するかをアピールしている。

しかし、このアンモニア発電。実現しようとするといくつかの障害がある。そのうちいくつかの不都合な事実を挙げてみたい。

■アンモニアは製造過程で大量のCO2を排出する

確かにアンモニアを燃やしてもCO2は排出されないが、アンモニアを製造するときに大量のCO2を排出する。

アンモニアの原料は窒素と水素だが、水素は現在では天然ガスと水、または石炭から取り出される。天然ガスや石炭から水素を取り出せば、炭素が残り、これが二酸化炭素CO2として排出されることになる。

もう一方の原料である窒素は、空気を-200℃というごく低温まで冷やして取り出しているので、このとき膨大なエネルギーを消費する。また窒素と水素からアンモニアを作るときにもエネルギーを消費する。この製造にかかるエネルギーについても化石燃料を使って得るとすれば、大量のCO2が排出されることになる。

これらのアンモニア製造に伴って発生するCO2は、筆者の計算によるとアンモニア1トンを製造するために2.35トンのCO2が排出されることになる(天然ガスを原料とした場合)。この排出量は天然ガスをそのまま燃やして発電した場合に排出されるCO2の2倍以上になる。

ということで、単純に化石燃料を原料として作られたアンモニアを海外から買ってきて石炭に混ぜて発電すれば、日本ではCO2の削減になっても、世界全体でみればかえってCO2の排出量が増えてしまうということになる。

■グリーン・ブルーアンモニアはコスト高

そこで、アンモニアの原料として天然ガスや石炭のような化石燃料を使うのではなく、太陽光や風力や水力で作られた再生可能な電力を使って水を電気分解して水素を作り、その水素を使ってアンモニアを作ることが考えられている。これならアンモニア製造時にCO2は発生しない。

あるいは、今までどおり天然ガスや石炭などを原料として水素を作り、副生したCO2は地中に埋めてしまうCCSという方法もある。

再生可能な電力を使ったアンモニアを「グリーンアンモニア」、 CO2を地中に埋めた場合は「ブルーアンモニア」という。これに対して、化石燃料を使ったアンモニアを「グレーアンモニア」という。グリーンやブルーのアンモニアであれば、JERAがいうように「CO2の出ない火をつくる」と言ってもいいかもしれない。

ただし、このようなグリーンやブルーのアンモニアを作っている工場は現在のところ、世界中どこにもない。これから新たに工場を作るか、現在のアンモニア工場をグリーンかブルーに改造しなければならないのだ。

このため、建設コストと建設時間がかかるし、再生可能な電力を手当するか、CO2を地中に埋めるかするための費用もかかるから、かなり高価なアンモニアになってしまう。
この図は資源エネルギー庁の発電コスト検証ワーキンググループで紹介された、グリーンおよびブルーのアンモニアのコストだ。

日本のアンモニア製造コストに関する見通し(出典)BNEF「Japan’s Costly Ammonia Coal Co-Firing Strategy」(2022)
日本のアンモニア製造コストに関する見通し
(出典)BNEF「Japan’s Costly Ammonia Coal Co-Firing Strategy」(2022)

これによると、グリーンやブルーのアンモニアの製造コストは次第に低減していくが、それでも2050年時点で400ドル/トン程度である。

また、 2022年に取りまとめられた燃料アンモニア・サプライチェーン官民タスクフォースの中間とりまとめによると、ブルーアンモニアの場合、日本着コストで400ドル/トン程度になると試算されている。

ブルーアンモニアのコストを400ドル/トン、為替レートを150円/ドル、アンモニアの発熱量を22.5MJ/kgとして計算すると、発熱量1MJ(メガジュール)あたりのアンモニアコストは2.67円/MJとなる。

一方、石炭(一般炭)の日本着価格は2024年8月時点で23,000円/トンであるから、石炭の発熱量を26.1MJ/kgとして計算すると、コストは0.88円/MJとなる。つまり、発熱量当たりで比較すると、アンモニアのコストは石炭の約3倍という計算になる。

まだ、ワーキンググループの結論が出ていないが、アンモニア価格はかなり割高になることは確実であろう。

また、電力中央研究所はアンモニアと石炭を使って発電した場合の発電コストを試算しているが、これによれば石炭火力で8.7円/kWh、アンモニア発電では18.0円/kWhと発電コストでも2倍以上のコスト差となる。ちなみに天然ガス発電の場合は8.6円/kWhで石炭の場合とほとんど変わらない。

JERAは幾つかの企業とブルーあるいはグリーンアンモニアの購入について協議しているが、現在のところ供給契約まで進んだ例はない。契約がまとまらないのは、筆者の推測であるがアンモニアの価格面の問題も大きいのではないだろうか。

この先は、

■アンモニアの輸送は空気を運ぶようなもの

■グリーン・ブルーアンモニアは肥料向けが優先

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財部 明郎(オルタナ客員論説委員/技術士)

オルタナ客員論説委員。ブロガー(「世界は化学であふれている」公開中)。1953年福岡県生れ。78年九州大学大学院工学研究科応用化学専攻修了。同年三菱石油(現ENEOS)入社。以降、本社、製油所、研究所、グループ内技術調査会社等を経て2019年退職。技術士(化学部門)、中小企業診断士。ブログでは、エネルギー、自動車、プラスチック、食品などを対象に、化学や技術の目から見たコラムを執筆中、石油産業誌に『明日のエコより今日のエコ』連載中

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キーワード: #脱炭素

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