記事のポイント
- 認定NPO法人が日本語の「グリーンウォッシュ用語集」を発行した
- 消費者が正しい知識を身につけ広告を厳しく見極められるようにするのが狙いだ
- 「GX」や「ゼロエミッション火力」など、ウォッシュとなる理由とともに解説する
特定非営利活動法人気候ネットワークはこのほど、「グリーンウォッシュ用語集」を発行した。消費者が正しい知識を持ち、厳しく広告を見極められるようになることが目的だ。グリーンウォッシュとは、実態を伴っていないのに「エコ」「グリーン」「サステナブル」などと謳う、見せかけの環境主張のことを指す。用語集は、日本政府が掲げる「GX」やJERAの標榜する「ゼロエミッション火力」が、なぜグリーンウォッシュに該当するのか、理由とともに解説する。(オルタナ副編集長=北村 佳代子)
グリーンウォッシュは、環境問題の解決に貢献したいと考える消費者を欺く行為であり、環境を守るために本来必要な取り組みを遅らせてしまう点が大きな問題だ。
しかし、日本では「グリーンウォッシュ」を取り締まる規制がなく、野放しとなっている。
海外の動向を見ると、EUは2024年2月に、環境配慮に関する表示のルールを定めた「EUグリーンクレーム指令」を採択し、グリーンウォッシュを厳しく取り締まる。豪州や韓国でも、グリーンウォッシュで消費者を欺いた企業に罰金を科す法制度化が進む。
欧州や北米では、石油会社や航空会社、アパレル会社などの環境主張が、誤解を招く「グリーンウォッシュ」だとする訴訟が相次いでいる。
国連のグテーレス事務総長は2024年6月、化石燃料の広告を禁止するよう訴え、広告会社やPR会社に対しても、グリーンウォッシュに加担することを止めるよう呼びかけている。
■「2050年カーボンニュートラル」だけならウォッシュに
用語集は、単なる用語の説明では終わらず、どういう視点が不足するとグリーンウォッシュに陥るかを丁寧に解説する。
例えば、2020年10月に菅政権が「2050年カーボンニュートラル」宣言をしたことを機に、企業や自治体にもこの目標が広がった。
用語集は、この「カーボンニュートラル」について、「産業活動などにより排出される温室効果ガスの量と、森林などにより吸収される温室効果ガスの量が差し引きでゼロになっている状態のこと」と説明した後に、以下の解説(一部抜粋)を加える。
「2050年にカーボンニュートラルを達成するだけでは、地球の平均気温上昇を1.5℃に抑えることはできない。重要なのは2050年より手前の中間目標である」
「2050年にカーボンニュートラルを達成できても、それまでにCO2排出量がカーボンバジェット(地球の気温上昇を一定レベルに抑えるために許される残りの排出量)を超えれば、1.5度目標は達成できない」
「『2050年カーボンニュートラル』を掲げていても、2030年目標や具体的な排出削減策が示されていない場合はグリーンウォッシュだと言える」
■「GX」や「ゼロエミ火力」もウォッシュ
用語集は、日本政府が掲げる「GX(グリーン・トランスフォーメーション)」について、「気候変動対策よりも、化石燃料や原発の利用を前提とした既存の産業構造の維持を優先する内容となっており、『グリーン』の名を冠したグリーンウォッシュだ」と断じる。
JERAなどが謳う「ゼロエミッション火力/脱炭素火力」についても、「水素・アンモニアなどの代替燃料の利用やCCU(二酸化炭素の捕捉・利用)によって温室効果ガス排出をゼロにした火力発電所のことを指すが、そのようなものは存在せず、今後の実現も難しい」として以下のように解説する。
「火力発電のライフサイクル全体で温室効果ガス排出ゼロにするのは、技術的・経済的に極めて難しく、温室効果ガスを漏らさない資源の採掘プロセス、多大な代替燃料、運搬の脱炭素化、完全な温室効果ガスの回収・貯留技術などが必要となるが、これら全て実現の見通しは立っていない」
「これらの問題を残しながら『ゼロエミッション火力/脱炭素火力』を推進することは、火力発電の延命につながり、気候変動をさらに加速させることになる」
「火力発電は気候変動を引き起こしてきた主要因であり、気候変動の抑制のためには一刻も早く退出させていくべきである」
■広告の真の意図は「火力発電を容認する社会意識の醸成」
気候ネットワークの代表で弁護士でもある浅岡美恵理事長は、オルタナに対して、以下のようにコメントした。
「地球沸騰化の時代、1.5℃目標の実現に向けて、本当の排出削減の取り組みが急務となっている。ところが、2020年に2050年カーボンニュートラル宣言が出された頃から、エネルギー基本計画に、石炭火力でのアンモニア混焼といった1.5℃目標に逆行する取り組みが登場し、あたかも日本がとるべき気候変動対策の代名詞のように語られるようになっていった」(浅岡理事長)
「その流れと並行して、2021年頃から急速に、『ゼロエミッション火力』とか『CO2が出ない火』との印象的なフレーズが、ゴールデンタイムのテレビコマーシャルやネットメディアに溢れるようになった」(同)
「その代表挌であるJERAは、電力の小売事業者ではない。多大な広告費用を投じる目的は、消費者の消費行動を誤認誘導するというより、気候変動への市民の関心の高まりを逆手にとって、火力発電を容認する社会意識の醸成を意図したものといえるだろう」(同)
「実際、そうした広告の量の高まりとともに、水素・アンモニア混焼による火力発電の延命策が手厚く制度化されてしまった。国の気候政策そのものがグリーンウォッシュと言われるゆえんだ」(同)
こうした動きを問題視した気候ネットワークは2023年、日本環境法律家連盟と共同し、JARO(日本広告審査機構)に対して、JERAの広告中止を求める申し立てを行った。
しかし、JAROが動かなかったため、2024年8月には、同NPOはグテーレス国連事務総長に情報提供したことも明らかにした。
■用語集を活用し、欺瞞(ぎまん)を見抜く力を
浅岡理事長は、「子どもたちが被る危険な気候変動の影響を最小化することは、今の大人たちの責任であり、そのためには消費者や市民が、まっとうな気候対策とまやかしの対策とを見極め、欺瞞を見抜く力をつけることが必要だ」という。
「エネルギーや気候変動問題は複雑だ。『ん?』と思っても、普通の生活の知恵では間に合わない」
「そこで、まず直面する『用語』についての解説が手元にあれば、その先の難しそうにみえる政策議論に踏み込んで考え、誤認に誘導されることを回避し、適切な選択をしていく一助となるのではと考え、用語集の作成に至った」という。
用語集は、エネルギー関連を中心に、31の注目すべき用語を解説する。
「まだ、大事な用語が漏れているかもしれない。読者の声を集めて、さらに拡充していきたい」(浅岡理事長)
気候ネットワークのグリーンウォッシュ用語集はこちらから。