78号第一特集: 日本のGXはガラパゴス

日本のGX(グリーントランスフォーメーション)政策が、世界の「脱炭素」潮流と大きく乖離(かいり)してきたことが際立ってきた。その極致は、「ゼロエミッション火力」だ。石炭火力発電の継続利用を前提とし、アンモニア混焼・専焼を推進する。海外のNGO からも批判が高まるが、日本政府はどこ吹く風だ。なぜ日本のGXはこれほど「ガラパゴス」なのか。(オルタナ副編集長=吉田 広子、池田 真隆、北村佳代子、長濱 慎、編集部・松田 大輔)

国連事務総長に直接レター送る

「日本政府がやることは、国際潮流から大きく遅れを取っている。長期視点で考えた時、日本のGX・エネルギー政策は本当にこれでいいのか」

日本の環境NPOの老舗、気候ネットワーク(京都市)の浅岡美恵理事長は8月15日、国連のアントニオ・グテーレス事務総長宛にこんなレター(書簡)を書いた。

レターでは、日本政府がGX政策に沿って進めるゼロエミッション火力について、「グリーンウォッシュ政策」だと批判した。わざわざ国連事務総長に訴えたのは、日本に国際的な「監視の目」を向けたいという思いからだ。

浅岡理事長は、「疑問に思っているが、政府を批判できない立場の人は多い。国際潮流と逆行している日本の政策のおかしさを海外から正しく批判してもらいたい」と力を込めた。

G7では、排出削減対策のない石炭火力発電を2035年までに段階的に廃止することを合意している。だが、日本はG7の中で唯一、石炭火力の廃止時期を明らかにしていない。

GX政策では、30年以降も石炭火力発電を使い続けることを盛り込んだ。この政策があればこそ、日本最大の火力発電事業者JERA(ジェラ)は、「CO2が出ない火」として、「ゼロエミッション火力」と称する広告を展開する。

石炭火力に化石燃料由来の「グレーアンモニア」の混焼とCCS(二酸化炭素回収・貯留技術)などの活用で、「ゼロエミッション」を達成するという趣旨だ。だが、この広告では、アンモニアの製造時に大量のCO2が出ることを一切説明していない。

経産省・資源エネルギー庁は、国内の大手電力会社が保有するすべての石炭火力発電所でアンモニアを20%混焼すると、CO2の削減量は約4千万トンと試算する。資源エネルギー庁の公式サイト「エネこれ」でもこの数値を公表している。

だが、この算定には、アンモニアの製造や輸入に伴うCO2排出量を考慮していない。その理由について、資源エネ庁の水素・アンモニア課は、「アンモニアの調達先が確定しておらず、技術も確立していないため」と、オルタナの取材に回答した。

アンモニアの伝統的製法である「ハーバーボッシュ法」では、製造したアンモニアよりも多いCO2を排出する。実質的な削減対策にならないことを隠した表現に、浅岡理事長は、「グリーンウォッシュ広告」とまで言い切った。

国連のグテーレス事務総長には、世界から毎日多くの陳情や情報が届く。気候変動だけでなく、紛争や貧困など、NGOなどが課題の深刻さを訴える。現時点で、国連から浅岡理事長への返答はない。

(この続きは)
■広告会社とも国連が対話へ
■日本の「GX」に業界・企業が圧力
■日本は炭素税も実質的に見送り
■炭素の格付け、産業界が猛反発
■エネ安全保障は機能していない

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オルタナ編集部

サステナブル・ビジネス・マガジン「オルタナ」は2007年創刊。重点取材分野は、環境/CSR/サステナビリティ自然エネルギー/第一次産業/ソーシャルイノベーション/エシカル消費などです。サステナ経営検定やサステナビリティ部員塾も主宰しています。

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キーワード: #脱炭素

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