ノウフクの「経済性と社会性」両立をトークセッションで議論

記事のポイント


  1. ノウフクの日制定を記念して12月2日にイベントが開催された
  2. 農福連携でつくられた野菜や製品の販売やトークセッションも行った
  3. トークセッションでは経済性と社会性を両立するノウフクについて議論された

担い手不足や高齢化といった農業の課題と、障がいがある人の就労問題を解決する「農福連携」。農業や福祉関係者のみならず、社会全体で「農福連携」を盛り上げる機運を高めようと、11月29日が「ノウフクの日」に制定された。12月には、「ノウフクの日」制定記念イベントが都内で開催され、経済性と社会性を両立する農福連携のあり方について議論が交わされた。(オルタナ編集部=萩原 哲郎)

農福連携とは、農業の現場で障がい者が就労して活躍することで自信と生きがいを得るとともに、農業経営の発展に寄与する取り組みだ。農林水産省によると、農福連携に取り組む事業者は2022年度末で6000以上に上る。

12月に開かれた「ノウフクの日」制定記念イベントは、日本農福連携協会(東京・千代田)、農福連携等応援コンソーシアム、農福連携全国都道府県ネットワークが共催した。会場内では、農福連携を実践する事業者が野菜や商品を展示したほか、働く障がい者の声や絵なども展示された。

農福連携について議論する4つのセッションを開催

当日は、4つのトークセッションを開催した。

「多様な人材が生み出す高品質な農産物」と題したセミナーでは、農福連携に取り組む3人の事業者が登壇。ここで議論されたのが、「経済性と社会性」を両立させて、どのように農福連携を持続可能にしていくかということだった。セッションでは3者3様に農福連携をビジネスとして成り立たせる手法が紹介された。

■高品質なイチゴが国内外から評価

イチゴ農園を運営する遊士屋(ゆうじや、三重県伊賀市)の宮澤大樹社長は、「課題を解決しながら、ビジネスとして成り立たせることが重要だが、『商売っ気がある』と感じられてしまうことが少なくなかった」と話す。

遊士屋は、ワンネス財団(沖縄県南城市)と連携し、発達障がいや依存症など生きづらさを抱える人たちを⼀般就労で雇⽤している。「完熟クラフト苺 BERRY(ベリー)」のブランド名で、高品質なイチゴを生産し、国内外で販売。有名パティシエと取引があるほか、タイの王室に献上したこともある。

■有機栽培で農産物に付加価値を

有機農業を行うアグリーンハート(青森県黒石市)の佐藤拓郎社長は、自身の病気や叔父のケガがきっかけで、農福連携に取り組み始めた。

佐藤社長は、「自分が病気になったときに家族経営の限界を感じた。同時期に、ケガで仕事ができなくなった叔父に、農業で生きがいを作れないかと考え、農福連携を始めた」と語る。

しかし、当初はうまくいかなかった。連携する就労継続支援B型事業所の利用者に、ほうれん草の収穫から袋詰めまでを依頼したが、「自分たちが100できるところ、50くらいになってしまった」。佐藤社長の父からは、農福連携の継続は「難しいのでは」と言われた。そこで、佐藤社長は「高付加価値商品ならどうか」と考え、たどりついたのが有機農業だった。

佐藤社長は、農福連携を通じて様々な課題解決を考える。就労支援については農福連携の対象を障がい者だけではなく、高齢者やひきこもりの人、出所者にも広げる。こうすることで「約5000万人の就労支援につながる」と話す。さらに有機農産物をつくることで、農薬や化学物質が引き起こす課題の解決にも向かう。

農福連携と有機農業の二輪で社会性と経済性を両立する。この二輪がうまく動けば、課題解決をしながら、かつ利益を生み出し・課題を生み出さない農業が実現するわけだ。

山梨県北杜市で有機JAS認証を取得した農業を展開するファーマン(山梨県)の井上能孝社長は「農福連携などが絵に描いた餅にならないよう、ビジネスも重視している。儲けなくして、事業も社会も持続性はない」と強調する。
同社は事業活動のなかで農業と何かをかけ合わせる「農業×X」の取り組みを進める。そのひとつに「農業×『お任せしよう』」と掲げて、農福連携に取り組んでいる。

そのうえで井上社長は「その利益を次世代や社会への包摂性、環境性などへの投資に使っていくことで、持続する仕組みをつくっていける」と話した。

農林水産省農福連携推進室の渡邉桃代室長は、「農福連携は、昭和に障がい者の就労支援から始まり、いまでは対象が広がった。障がい者や生活に困窮している人、引きこもりの人や元受刑者などが活躍する場をみんなでつくっていこうと進化してきた」と紹介した。

そのうえで「大量生産・大量消費からサステナビリティの時代に変わるなかで、農業は食を通じて社会と人類を次世代につなげていく役割がある。そこにいろんな人が関わることが、ダイバーシティ社会がつくっていくきっかけになるのでは」と指摘した。

2014年から不動産業界専門新聞の記者職に従事。2022年オルタナ編集部に。

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キーワード: #農業

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