エシカル商品は「遊び心」がないとヒットしない、識者が語る

記事のポイント


  1. 日本のエシカル市場規模は約8兆円(2022年)に広がった
  2. 堅調に拡大してきたが、英国の22兆円と比べると3分の1だ
  3. 識者はヒットするエシカル商品の条件として「遊び心」を挙げた

日本では2010年ごろから「エシカル」という言葉が聞かれだした。日本のエシカル市場規模は約8兆円(2022年、エシカル市場規模調査実行委員会調べ)にまで広がったが、英国(22兆円)と比べるとおよそ3分の1だ。ヒットするエシカル商品に必要なものは何か。(オルタナ副編集長=池田 真隆)

対談した日本エシカル推進協議会の生駒芳子会長(左)とFreewillの麻場俊行CEO

エシカルとは、「倫理的な」という意味を持つ形容詞だ。環境や社会、人に配慮した製品を総称して、「エシカル商品」と呼ぶ。エシカルはチャリティー文化が根付く英国で生まれた概念だが、2010年ごろから日本でも広がりだした。

2010年代半ばまでは、日本でのエシカルの認知度はフェアトレードやエコなどと比べて高くはなかった。だが、エシカルを掲げたファッションブランドなどが立ち上がり、着実にその市場は広がっていった。

日本人の6人に1人、「非エシカルな商品の購入を控える」

エシカル市場規模調査実行委員会がこのほど実施した市場規模調査では、日本のエシカル市場の規模は約8兆円(2022年)に及ぶことが明らかになった。日本人の6人に1人が非エシカルな商品の購入を控えていたことも明らかになり、特にその傾向は10~20代のZ世代に顕著だった。

だが、英国と比べると日本の市場規模はまだ3分の1だ。エシカル商品をヒットさせるにはどのような条件が必要なのか。

若者向けにエシカルの祭典「MoFF(モフ)」を開くIT企業Freewill(フリーウィル、東京・港)の麻場俊行CEOと専門家らが登壇する「エシカルサミット」を開く一般社団法人日本エシカル推進協議会(横浜市)の生駒芳子会長が、エシカル商品のヒットの法則を語った。

2024年11月に開いたMoFFには約1万6000人が集まった

――「人や社会に配慮する」ことを意味するエシカルは、フェアトレードやオーガニックと比べてその概念が広いです。世界共通の定義もないです。生駒さんはエシカルをどうとらえていますか。

生駒:私がエシカルという言葉に出会ったのは、ファッション誌「マリ・クレール」の編集長を務めていた2017年です。英国でエシカルという言葉が話題になっていると聞き、記事を作ろうと思ったのがきっかけです。

エシカルの概念は寄付やフェアトレードが盛んな英国に端を発します。1990年代英国のブレア首相(当時)が、アフリカの子供たちの飢餓問題を解決する政策に、その言葉を使用したことが発端とされています。「犠牲の上に豊かさが成り立ってはいけない」、「国と国の外交ではなく、個人と個人の交渉として考え直すべき」という立場を示したのです。

1989年、マンチェスター大学に通う学生がフリーペーパー「エシカルコンシューマー」を創刊しました。このフリーペーパーが英国にエシカルを浸透させた立役者です。

同誌では、「環境」や「人権」「持続可能性」などの独自の指標で、企業のエシカル度を測定したことが特徴です。この雑誌をつくった狙いは、エシカルな価値観を持った企業を応援していくことでした。公平な情報発信を行うため、広告に頼ることなく、エシカルな価値観に共感した市民らの寄付で成り立っています。

日本エシカル推進協議会でも、エシカルコンシューマーのように、日本初の「エシカル基準」を策定しました。その基準は、「環境」や「人権」「動物福祉」など大別すると8分野に分けられます。

社会課題の解決が求められる時代の潮流に乗って、エシカルも広がってきました。一方で、本当はエシカルでないにも関わらずエシカルと詐称するサービスも出てきたので、そのような行為がまかり通らないようにしたいという思いもあり、この基準を定めました。

「消費のモノサシを変えない限り、エシカル消費は定着しない」

――エシカル商品をヒットさせる条件は何だとお考えですか。

麻場:フリーウィルでは、2019年からエシカルの祭典「MoFF(モフ)」を開いてきました。今年は11月22~24日に原宿駅前の「WITH HARAJUKU」で開きました。生駒さんのエシカル推進協議会さんともコラボさせて頂きました。

モフでは、トークイベントに加えて、80超のブランドが出店するエシカルマルシェやワークショップ、音楽イベントなど多彩なプログラムを用意しました。3日間で若者中心に約1万6000人が来場しました。

私は消費者が変わらないとエシカル消費は広がらないと考えています。つまり、生産者側がどれだけ努力しても、消費者の商品を選ぶモノサシが変わらない限り、その努力は正当に評価されないと思います。

エシカル商品は一般的な商品と比べると価格が高いです。安価に惹かれてしまう人は少なくないです。当然その気持ちもわかります。ただし、消費のモノサシを変えない限り、エシカル消費は定着しません。

ただ、正攻法で進めてもエシカル消費が定着するにはかなりの時間を要します。消費者一人ひとりがエシカルに詳しくなることも必要です。私たちはIT企業なので、効率性を重視します。そこで思いついたのが、「サスPay」というサービスです。このサスPayで決済すると、支払った額の一部が森林保護団体などへの寄付になります。

消費者はサスPayを持っているだけで、意識するかしないに関わらず、常にエシカル消費を実践することができるようになります。このサービスで毎日の買い物の「仕組み」そのものを変えていきたいと思っています。モフで開いたエシカルマルシェでも、来場者にはサスPayを通して商品を購入してもらうようにしました。

本来は、エシカル消費を根付かせるには教育から取り組む必要がありますが、今は気候危機が深刻化しており、時間は待ったなしです。環境問題だけでなく、文化・伝統技術の後継者もいなくなっています。

決済アプリでの利益はプラットフォーマーやその企業の株主に還元されてきました。ただし、サスPayでは、その還元先は消費者が選べるようにしました。これが私たちが考えたエシカル消費を拡大するためのソリューションです。

日本とアフリカの古着を合体、唯一無二な1着に

生駒:日本エシカル推進協議会は、エシカル各分野の専門家の集団です。生物多様性、動物福祉、人権からフェアトレード、エシカルファッションまで、学術的な研究を手がける学者から、コンサルタント、プロデューサー、 NPO/NGOなどの活動家まで、幅広い人材と知恵を擁しています。

エシカルでないのに、エシカルを標ぼうする「エシカルウォッシュ」があちこちに見受けられる中で、正しい知識を伝える場として、また、専門家の視点で、新たな課題解決の道筋を提示する場として、「エシカルサミット」などを開いてきました。

ただ、どうしても専門性が高くなりがちです。麻場さんのような視点で一般層にもエシカルを広めていくことは私たちも勉強しないといけないと感じました。

これまでにエシカル商品を多く見てきましたが、私はヒットする商品には「遊び心」が欠かせないと見ています。

最近では、高島屋さんとアフリカ・ウガンダ共和国のファッションブランドがコラボした取り組みが印象に残っています。そのブランドは、アフリカ・ウガンダ共和国の新進気鋭ブランド「BUZIGAHILL(ブジガヒル)」です。

このブランドはコンセプトとして、「RETURN TO SENDER」(差出人に返す)」を掲げています。先進国からアフリカに大量に輸出・寄付され飽和状態となった古着をデザイナーが再デザインし、新たな洋服へと昇華・アップサイクルして「先進国に返送・販売」する取り組みです。

高島屋がお客さんが着なくなった古着を集め、ブジガヒルが集めたアフリカの古着と掛け合わせて1着の服にしました。ちょうど半分づつ切って、合体させていることもあり、見た目も結構かっこいいです。

高島屋店頭で回収した古着とアフリカの古着をコラージュするように組み合わせた

これは、すごくわかりやすいアップサイクルだと思いました。古着を持ってきた人もどのような服になるのか楽しみに待てます。クリエイティブに溢れた商品だと思いましたね。

麻場:やっぱり、正しさだけでなく、「楽しさ」もないといけませんよね。そういう意味では、極論すると、「デザインが世界を変える」と思います。だから、アートは人の心を動かします。イベント名の「MoFF(モフ)」は、「The Museum of Freewill&Future」の略称です。会場にもアート作品を展示して、非日常な空間でエシカルな買い物ができるようにしました。

生駒:そうですね。教育ももちろんですが、五感に訴えるクリエイティブな工夫がとにかく大事ですよね。考えすぎてしまうと、自分がどう感じているのかその感覚に蓋をしてしまうことにもなりますからね。

地方での心豊かな暮らしが、エシカルな社会の「ビジョン」

――日本エシカル推進協議会さんが開いた今年の「エシカルサミット」では、「地方とIT」をテーマに掲げました。地方を掲げた狙いは何ですか。

生駒:都市と地方の格差、社会全体の経済格差が、今、大きな課題となっています。就労困難者をはじめとする社会の弱者を取り残すような状況を、なんとかして改善していかなければなりません。

里山資本主義の考え方に代表されるように、自然を資源とみなして、地方でより心豊かに暮らすことこそが、エシカルな社会において必要なビジョンではないかと考えたところから、このテーマが生まれました。

今回基調講演で紹介された、徳島県の神山町の事例は、まさしく、 アートや IT の力で過疎化が進む里山が潤い、結果として、エシカルなライフスタイルを求める方々の移住に繋がっています。地方が元気になれば、この国はもっと元気になれます。

これまでは日本エシカル推進協議会単独で小規模に開催してきましたが、今回は、 フリーウィルのモフと組むことで、より広く、より五感に訴えかける形で、より多くの方々にエシカルのスピリットを伝えることができたと感じて有意義であったと感じています。

さまざまなエシカルな世界を体験し、正しく学べる場は必要です。今後もフリーウィルとご一緒に組み立てていければと思っております。

麻場:ありがとうございます。こちらこそ、ぜひよろしくお願いします。

M.Ikeda

池田 真隆 (オルタナS編集長)

株式会社オルタナ取締役、オルタナS編集長 1989年東京都生まれ。立教大学文学部卒業。 環境省「中小企業の環境経営のあり方検討会」委員、農林水産省「2027年国際園芸博覧会政府出展検討会」委員、「エコアクション21」オブザイヤー審査員、社会福祉HERO’S TOKYO 最終審査員、Jリーグ「シャレン!」審査委員など。

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キーワード: #エシカル

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