機関投資家向け企業報告の新たなる地平[中畑 陽一]

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前回は企業レポートの民主的役割についてまとめてみましたが、その企業レポートの役割がサステナビリティの文脈からも極めて重要になりつつあります。その発行の意味と役割について昨今の動向をまとめてみたいと思います。ここでは特に投資家向けに発行されている最大の報告書「アニュアルレポート※(以下AR)」にスポットを当てます。(IR・CSRディレクター=中畑 陽一)

※AR…主に上場企業が年に一回、主に機関投資家向けに発行する企業が、有価証券報告書や決算説明会資料などでは伝えられない自社の戦略や強み、機会やリスクを分析し、投資家に自由に伝えるための媒体で、A4やレターサイズで数十ページから数百ページで、またはコーポレートサイト上で発信される。ここでは、非財務情報も含めて中長期的な企業の価値創造を伝える新しい報告概念である「統合報告」も含めるものとする。

■ 投資家の意思決定に資するAR

バリュー投資家として世界で最も有名と言ってもいいウォーレン・バフェット氏やコモンズ投信の伊井哲朗社長などアニュアルレポートを読む投資家層は、特に長期投資に多いようです。

アニュアルレポート評価法を確立したローラ・J・リッテンハウス氏の著書を訳した『信頼できる経営者を見分ける法』では、主にバークシャー・ハサウェイとエンロンが比較されアニュアルレポートの質の差を大いに論じて、その必要性が説かれています。

また、投資家の企業情報への関心を調査した米のレポート(http://goo.gl/brTU1G)では、約半分の投資家は投資先のアニュアルレポートをフォローしている事が述べられています。

割安銘柄に投資するにしても、成長銘柄に投資するにしても、企業が自主的に自社のビジョン、成長性や競争優位、リスク認識や財務分析を投資家向けにまとめているアニュアルレポートをまったく読まずに投資決定するということは、有り得ないのではないかと考えられます。

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中畑 陽一(オルタナ総研フェロー)

静岡県立大学国際関係学部在学時、イギリス留学で地域性・日常性の重要性に気づき、卒業後地元の飛騨高山でタウン誌編集や地域活性化活動等に従事。その後、デジタルハリウッド大学院に通う傍らNPO法人BeGood Cafeやgreenz.jpなどの活動に関わり、資本主義経済の課題を認識。上場企業向け情報開示支援専門の宝印刷株式会社でIR及びCSRディレクターを務め関東・東海地方中心に約70の企業の情報開示支援を行う。その後、中京地区での企業の価値創造の記録としての社史編集業務を経て、現在は太平洋工業株式会社経営企画部にてサステナビリティ経営を推進。中部SDGs推進センター・シニアプロデューサー。

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