サプライ・チェーン・マネジメント、国際学会での議論(3)【企業と社会の関係】

岡田仁孝教授(上智大学)からは、SCMを巡る国際的議論は、人権侵害を起こした企業が国際法による責任を問われるようになったことが発端であると指摘されました。1990年代半ば以降、人権に関する社会的関心の高まりや欧米企業に対するNGO からの批判を背景に、経済開発における社会的公正性が叫ばれるようになってきました。

社会的包摂への取り組みが進む中、従来の援助中心のアプローチも変化し、企業による価値創造の活動が活発になっています(CSVやBOPなど)。国連による『Our Common Future』(ブルントラントレポート、1987年)以降強調されるように、人間の開発を達成する手段としての経済開発は、政府だけでなくセクターを越えた協働が必要であることが指摘されました。

鈴木均氏(NEC・国際社会経済研究所)からは、社会とNECグループの持続可能な発展を最終ゴールに設定した企業行動憲章と、その具体的取り組みについて紹介されました。NEC では、社会、環境、ステイクホルダーに対するネガティブインパクトを低減することを目的として、SCMもリスクマネジメントの一環として位置づけています。

CSR 経営上優先的に対応すべきリスクを、製品の品質と安全性、環境と生物多様性、情報セキュリティ、公正取引、労働安全衛生、人権の6 項目と設定し、これらをCSR部門に限らず、企業全体のリスクマネジメントとして組み込んでいます。

2004年からはNECグループの各地域統括会社にCSRプロモーターを配置し、サプライ・チェーンに関するCSRガイドラインとチェックシートを使って毎年、上記主要6リスクについてセルフチェックを実施しています。

CSR リスクマネジメントは上流のサプライヤーだけでなく、バリューチェーン全体を対象にする必要があること、BCP・紛争鉱物・汚職など近年重要性を増している課題に(競合他社も含めて)産業レベルで協力して対応することは費用効果(効率性)と公正な競争のために大切であることが指摘されました。

パネルディスカッションでは、SCM に関する政府のサポートのあり方、企業による持続可能なSCM のために消費者・市民が果たす役割について、問題提起と議論が行われました。

「法律は、コンプライアンスにおいては一定程度有効であるが、コンプライアンス徹底よりも価値創造を促進することが求められる」、「市場が求めれば企業は変わる。消費者は重要なステイクホルダーである。消費者や取引先から要請があれば企業は対応せざるを得ない」、「政府はESG 規準を取り入れたCSR 調達によって市場にインパクトを与える」との意見交換が行われました。

(この記事は、株式会社オルタナが2014年2月5日に発行した「CSRmonthly 第17号」から転載しました)

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齊藤 紀子(企業と社会フォーラム事務局)

原子力分野の国際基準等策定機関、外資系教育機関などを経て、ソーシャル・ビジネスやCSR 活動の支援・普及啓発業務に従事したのち、現職。一橋大学大学院社会学研究科修士課程修了、千葉商科大学人間社会学部准教授。

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