■ M-PESAにみるCSR担当者によるCSVの創造
しかし、CSR担当者が自らCSVビジネスを生み出すことができないわけではなく、イントラプレナー・マインドを持つCSR担当者であれば、自らCSVビジネスを創り出すことも
できるはずです。
例えば、ボーダフォンの途上国におけるモバイル金融サービス「M-PESA」は、CSR部門における国連「ミレニアム開発目標」に如何に貢献するかという検討から始まっています。まず、ボーダフォンのCSR部門長のニック・ヒューズ氏が、途上国の経済を後押しする手段として、「貨幣の流通速度」に着目しました。
ヒューズ氏は、途上国に金融インフラがないことから、ボーダフォンの無線技術を使えば、スピーディーで、安全かつ低コストのモバイル金融が実現し、経済や雇用創造に貢献できると考え、企画書にまとめました。
しかし、社内からは、「CSR部門に儲かる事業がつくれるのか」「金融ビジネスは通信会社がやるべき仕事なのか」などの否定的な意見が出され、社内稟議はなかなか通りませんでした。
そうした中、ボーダフォンでモバイル・ペイメント・サービスの開発と商業化を担当するスージー・ローニー氏と出会い、2人は、資金調達のため、英国国際開発省のコンペに参加し、「モバイル技術を活用して、銀行口座を持っていない貧困層にマイクロファイナンスを提供する」という企画で、1 億3000 万円の資金を獲得したのです。
この成功をテコに、会社からも1億4000億円の出資を獲得しました。そして、ボーダフォンが出資しているケニアのサファリコムをパートナーに選び、事業を開始しましたが、サファリコムはあまり協力的ではなく、ボーダフォンも「とりあえず2人で頑張ってみたまえ」という状況でした。
最初のサービスがなかなかうまくいかない中、貧困層の人々に直接会って話を聞いたり、貧困層の人々の仕事や生活をつぶさに観察したりする中、銀行口座を持っていない人々が「給与の安全な入金と管理」「家族への送金」「ちょっとした日常の小口決裁」というニーズを抱えていることを発見しました。
2人は、こうしたニーズに対応し、携帯電話のSMSを利用したP2P金融サービス「M-PESA」を考案しました。そして、規制当局なども説得し、事業化したところ、予想を大きく上回る成功を収めました。
この例にあるように、CSVの特徴として、パートナーシップを組みやすいということがあります。社内外の資金やリソースを活用すれば、CSR部門でも、CSV事業を推進できる可能性があるはずです。
【みずかみ・たけひこ】東京工業大学・大学院、ハーバード大学ケネディースクール卒業。旧運輸省航空局で、日米航空交渉、航空規制緩和などを担当した後、アーサー・D・リトルを経てクレアンに参画。CSR/ サステナビリティのコンサルティングを主業務とする。ブログ「CSV/ シェアード・バリュー経営論」共著『CSV 経営』(NTT 出版)
(この記事は、株式会社オルタナが2014年7月7日に発行した「CSRmonthly 第22号」から転載しました)