記事のポイント
- 東日本大震災で津波被害を受けた宮城県石巻市雄勝町が自然再生に取り組んでいる
- 持続可能なリジェネラティブ農業を、土づくりから実践し、生態系の回復も確認した
- 2024年に地域住民らと植樹したブドウを栽培し、30年からのワイン販売を目指す
東日本大震災での甚大な津波被害によって町の8割を失った宮城県石巻市雄勝町(おがつちょう)で、自然再生の取り組みが官民連携で進む。一般社団法人MORIUMIUS FARM(モリウミアスファーム、宮城県石巻市)は、元・雄勝中学校の跡地で、持続可能な「リジェネラティブ農業」を実践する。土壌づくりから始め、2024年4月には7種1300本のブドウを植樹、2030年のワイン出荷を目指す。(オルタナ副編集長=北村佳代子)

(写真提供)一般社団法人MORIUMIUS FARM
現在、農園には、ピノグリやピノノワールなどの品種のブドウが育つ。しかし、モリウミアスファームが土地を借り受けた2023年当時、土の状態は、無機質かつ重粘土で、水はけが悪く養分も不足していた。そこで地元の資源や自然の力を活用して、土壌の健全性を回復する再生の取り組みに着手した。
モリウミアスファームが実践するのは、有機肥料・堆肥などを活用する「リジェネラティブ農業」だ。栄養価の高い食物が育つとして、世界でも注目を集める。
■自然の力で健康な「土」づくりを進める
水はけの改善に暗渠を整備し、土中の水と空気の流れを循環させる「通気浸透水脈」を確保。土壌のpH調整には牡蠣殻の石灰を施用し、土壌中の炭素貯留量を増やすために竹炭を作って施用した。
土壌中の炭素貯蔵量については、国際的に推進されている「4パーミル・イニシアチブ」にも参加した。このイニシアチブは、世界の土壌の表層の炭素量を年間0.4%(4パーミル)増加できれば、人間の経済活動によって発生する大気中の二酸化炭素を実質ゼロにすることができるという考え方に基づくもので、温暖化対策の切り札としての期待も集める。
竹炭を加えた土壌に、さらに投入したのが、生ごみコンポストでつくった堆肥だ。微生物の力で生ごみを堆肥化する「LFCコンポスト」の普及に取り組むローカルフードサイクリング社(福岡市)が、全国のユーザーから堆肥の寄付を募り、これまで計4回投入した。同社は「旅して東北復興を支援する」ツアーを企画し、堆肥の投入作業やぶどう棚づくりも支援した。
モリウミアスファームの油井元太郎代表理事によると、「2回目に堆肥を投入したころから、土の色に少しずつ変化が見られた。土が徐々に有機質な土へと変化し、保水力や通気性の点でも向上が見られた」という。
LFCコンポストの堆肥のほか、緑肥作物としてソルガムの播種も行った。2023年には見られなかった多様な草本類が生育し、土壌生物の増加も確認できたという。
■子どもたちが学び、多くの人が集う場へ
2023年春から約1年かけて土壌環境を整え、2024年4月には農園主や地域の住民ら500人が集まってブドウの苗木を植樹した。2029年に収穫・醸造し、2030年にワインの販売を目指す。
今年秋には、日本財団の助成金により、畑の横に食の拠点「海と食の学び体験と食品加工・醸造施設」を竣工・オープンする。ワインやジュースの製造や、未利用資源を活用した食品の加工を行うほか、これらを体験でき、またショップやカフェを併設することで、子どもたちが学び、多くの人が集う場にしていく予定だ。