社内に浸透させるためには【戦略経営としてのCSR】

無論、経営戦略への取り込みには、経営陣の理解が前提であり、経営者の意識向上のための啓発活動は不可欠だ。つまり、リスク認識を高める観点から、経営管理層や管理部門を中心に浸透させる必要がある。
 
次に、社会課題の解決を企業価値につなげるためには、社会が注目している課題をテーマに取り上げ、解決策を検討することがカギとなる。そのためには、多くのステークホルダーを取り込み、社会視点からの課題の設定と実践的な解決策の検討が必要だ。外部者を巻き込み、新しい視点に立つことで、社会課題の解決に寄与するイノベーティブな製品やサービスが生まれる。

高いレベルで社会課題に応えることは、企業価値の向上につながる。経営資源の一定割合を社会課題解決に対応した製品・サービスの開発に充てることをコミットし、事業を通じた戦略の中で実践する。この場合は、細かなCSRに関する知識ではなく、実践できる枠組みこそが不可欠な要素となる。

自社のCSRを認識することは、自尊心や帰属意識を高めることにもつながる。取組みを振返り、体系的に俯瞰できるように、社内向けのCSR報告書の発行やCSRに関する研修を実施することは有意義である。

CSRを社内に浸透させるコツは、CSRに取り組むきっかけを如何にプロデュースできるか。本来は基本的な知識を身に付けたうえで実践すべきだが、日常業務を抱える中、知識や理屈だけでは行動につながらない。しかし、きっかけがあれば現場は動く。きっかけ作りこそがカギだ。英語教育と同じで、方法論よりも動機づけこそが英語力を高める。動機があってこそ方法論が効果を発揮する。
 
なお、得た知識を実践に移せる枠組みを予め用意しなければ、研修は単なる知識の習得で終わる。社員が自分ごと化できる環境を整備したうえで知識を共有して、初めて効果的となる。浸透目的を再確認したうえで、研修や実践などの手段を体系的に取り組むことが肝要だ。

(この記事は、株式会社オルタナ2014年4月7日に発行した「CSRmonthly 第19号」から転載しました)

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大久保 和孝

株式会社大久保アソシエイツ代表取締役社長(公認会計士・公認不正検査士)。慶應義塾大学法学部卒。前EY新日本有限責任監査法人経営専 務理事(ERM本部長)。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科特任教授、商工組合中央金庫取締役、セガサミーホールディングス監査 役、LIFULL取締役、サーラコーポレーション取締役、サンフロンティア不動産取締役、武蔵精密工業取締役(監査等委員)、ブレイン パット監査役、他多数の企業等の役員に就任。

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