欧州中銀がCSRD緩和に警告、対象企業8割除外案に懸念示す

記事のポイント


  1. 欧州中央銀行、CSRDおよびCSDDDの要件緩和に関する意見書を公表した
  2. 欧州委員会の提案が通れば、対象企業の8割が報告義務から外れることになる
  3. ECBはサステナビリティ目標の達成を阻害する可能性があると警告した

欧州中央銀行(ECB)はこのほど、CSRD(企業サステナビリティ報告指令)およびCSDDD(企業のサステナビリティ・デューデリジェンス指令)の要件緩和に関する欧州委員会の提案に対し、意見書を公表した。欧州委員会は2025年2月、両指令に基づく報告義務の簡素化と企業負担の軽減を目的とする改正案を発表。ECBは、対象企業のおよそ8割が報告義務から外れることになれば、EUのサステナビリティ目標や金融システムの安定性に深刻な影響を与えかねないと警告した。(オルタナ輪番編集長=吉田 広子)

CSRDは、企業に対して環境・社会・ガバナンス(ESG)に関する情報の開示を義務付けるEUの指令だ。CSDDDは、企業に対して、自社およびサプライチェーン全体における人権侵害や環境破壊を防ぐための責任ある行動(デューデリジェンス)を義務付ける指令だ。

この2つの指令は補完的な関係にあり、CSDDDで義務付けられた人権・環境デューデリジェンスの実施状況を、CSRDに基づいて外部に報告する仕組みとなっている。

ECBは、EUの基本条約である「欧州連合機能条約(TFEU)」に基づき、金融政策や金融安定に関わる法案について正式に意見を述べる権限を持つ。

■ 一貫したESG情報を幅広い企業から収集すべき

ECBは、意見書の中で、まず、企業の遵守コストが過度にならないよう、サステナビリティ報告やデューデリジェンス要件の合理化を図るという欧州委員会の方針には賛同する姿勢を示した。さらに、「競争力コンパス」などの欧州の競争力強化に向けた包括的な政策との整合性も評価している。

一方で、CSRDの対象企業が減少すれば、企業レベルのサステナビリティ情報が不足し、ECBによる気候リスクの評価能力が低下する恐れがある。

現行のCSRDでは、約5万社が報告義務の対象となっている。これに対し、欧州委員会は2025年2月、簡素化と企業負担の軽減を目的として、CSRDの適用対象を「従業員1000人超かつ売上高5000万ユーロ超」の企業に限定する改正案を提出した。

この提案がそのまま採用されれば、対象企業のおよそ8割が報告義務の対象外となる見込みだ。

ECBは、質の高いサステナビリティ情報の確保は不可欠であり、報告要件の簡素化が行き過ぎれば、EUのサステナビリティ目標や金融市場の透明性に影響を与える可能性があるとの見解を示した。

特に、気候変動や自然環境の変化に伴う金融リスクを的確に評価するためには、幅広い企業から一貫したESG情報を収集することが必要不可欠であると指摘。その上で、報告対象企業の範囲は十分に広く保ちつつ、報告基準は簡素で、かつ的を絞った内容とすることが、制度の有効性を高めるカギだとしている。

yoshida

吉田 広子(オルタナ輪番編集長)

大学卒業後、米国オレゴン大学に1年間留学(ジャーナリズム)。日本に帰国後の2007年10月、株式会社オルタナ入社。2011年~副編集長。2025年4月から現職。執筆記事一覧

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キーワード: #サステナビリティ

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